第21話 王子の事情?
グラスが重なり合い、心地よい音を立てる。そして、各々がグラスに口をつけて、ビールを喉に流していく。
「クウ。効くう。ビールは最初の一口目が美味しいなり」
マリンは目を細め、唇に白い泡を残して唇を弧にしている。テーブルには満足げな雰囲気が満ちていく。
「ビールと言ううのは初めてですが、喉をシュワシュワが気持ちよく流れていくのですね」
あきホンの呟きに、茉琳が直ぐに反応する。
「あきホン、本当にビール初めてなしか?」
「ビールというか、お酒自体初めてなんですよ。お恥ずかしながら」
アキホンの頬がピンクに染まって逝く。アルコールのせいか、羞恥のせいか、はたまた両方だったりするのか。
さっそく、
『♪───O(≧∇≦)O────♪」
王子の追っかけ二人組の嬌声が上がる。
「お二人とも、お静かにお願いしますね」
あきホンは二人を嗜めるものの、2人が止まらない。
「そんな、お顔拝見できたら、それだけでごはん3杯はいけます」
「もう、お二人とも」
そこで、お通しの塩昆布キャベツに箸をつけていた お誾さんが、
「そりゃ、ウチたちって大学入ったばかりばい、酒なんて初めてちゃうか?」
すると、あきホン以外参加者の目が泳いでいく。
「みんな、バリ悪モンやけんな」
「そう言う、お誾さんはどうなり?」
「そう、言わんとーて。祭りん時なんか、気付に一杯や」
すると、あきホンは、頬に手を当てて、
「私だけが遅れているのですね。でも今日からは違いますね」
がっかり顔からにっこりと女神とみまごう、笑みを浮かべていく。
そこへと皆が頼んだものが、運ばれてきた。
刺し盛り 串焼き 天ぷら盛り合わせ 茶碗蒸し
テーブルの上に所狭しと並んでいく。もちろんあきホンは鯵の干物を頼んでいる。
「あきホン、干物にはビールも良いけど、やっぱり日本酒なり、甘口の純米吟醸が合うなしよ」
茉琳は、あきホンにお勧めの話をしていく。早速、
「もし、もし、お酒を」
頼んでいくのだが、なかなか、店員を捕まえることができないでいた。
「あきホン、今は、このタブレットで注文するなりよ」
「そうなんですね、私知らなくて、お恥ずかしい」
「初めてなんだし、気にしないなり」
ポチ、ポチ、ポチ
手持ちのタブレットを操作して茉琳は早速注文をしていった。それほど時間をおかずに頼んだものが運ばれてきた。
「さ、さあ、まずは一献」
あきホンは、茉琳がぐい呑みに注いだ、お勧めの甘口吟醸酒を口にする。
「このお酒は、甘いのですね。フルーティと申しますか。飲みやすいですね」
「そうなり、そうなり、そして干物を」
干物を箸でほぐして、あきホンはそれを口にした。
「うわぁ、甘味が旨味を膨らませるって、言うんでしょうか。箸が止まらなくなりそうです」
そういって、すぐさま干物の一枚を平らげてしまう。飲む方も進み、お銚子が顔を染めた、あきホンの前に並ぶことになる。それでもなお、手酌で飲もうとする彼女に、
「ちょっ、ちょっとあきホン。飲むペースが早いなり、なんかあったなしか?」
茉琳は訝しげに、あきホンの顔を覗き込み、彼女が飲もうとした、ぐい呑みを奪い去った。茉琳が取っていった、ぐい呑みをあきホンは手で掴み返そうと追っていく。
よく見ると酒精に飲み込まれて目が座っている。そんな冷ややかな目で睨みつけられて茉琳も凍りついた。
「ひぃいい」
「私くしだって、飲んでうさ払いをしたくなる時だってあります」
小さい声でブツブツと吐き出す、あきホンの呟きを茉琳は聞こえてしまう。
「くそっ。こんな時、ゲンキチがいれば」
そして、こんな呟きも聞こえてしまう。
「ゲンキチって男の名よね」
茉琳は、あきホンの思いもよらない呟きに驚いてしまう。
ギン
すると、あきホンは手酌しようとして持っていた銚子を落としてしまった。中に入っている日本酒がデーブルに溢れて、広がっていく。
「あきホン!」
茉琳は、それに驚いて大声をあげてしまった。彼女は閉じた目の下を赤く染めている。そして茉琳の声にも反応しない。テーブルに着くもの、皆があきホンの状態に気づいた。
「あきホン」
「あきほ!」
「王子」
「茉琳! 何、あきホンを潰してけつかる?」
「中身が溢れたのなり、急いで拭かないといけないシー」
「そこの店の人。ふくもんもってきんしゃい」
丁度、目をつぶって動かない彼女の後ろのテーブル席の皿やグラスを片付けていた店員がいることに気づいた、お誾さんが叫ぶ。ふきんとかを持ってくるように頼んでみた。店員は、慌てて店の厨房へ跳んでいった。間をおかずにふきんを持ってくる。
程なくして、後片付けも済むと、
「あきホン、何かあったなしかあ?」
一緒に来ていたカオリンが、あきホンの代わりに、答える。
「ごめんねえ、この子も色々とあったんよ。察してやって」
「一体、何があったなり?」
しかし、カオリンは、顔を小さく左右に振るだけで答えなかった。あきホンのプライベートに関わるよっぽどのことだろうと、茉琳は、それ以上効くことを辞めた。
「茉琳さん」
1号夏目さんが話してきた。
「実は、王子って学園の敷地から出た時ないって聞いた時あるんです」
「夏目さん。茉琳って呼び捨てで。いいなシー」
「いえ、恐れ多い」
「………。外に出たことないって、なぜに?」
茉琳は相手に恐縮されてしまい、言葉を失う。仕方なく話を戻していく。
「ああ、それで構内でジョギングなり」
2号鎌田さんが話を続ける。
「そうなんです。だから、紫百合寮のラプンツェル、とか 座敷童子ならぬ御殿童子 とも呼ばれているんです」
「囚われのお姫様に、遠野物語の妖怪と、なんならすごいなりな」
「いわゆる神様じゃないかと、見えたら幸福が訪れるって言う」
「あきホン! 神様なシー。 拝んどこ。なんまんだぷ、なんまんだぶ」
目を瞑り、佇んでいるあきホンに茉琳は手を擦りながら拝んでしまう。
「茉琳、そけなこつ、仏教っと、浄土宗っと」
お誾さんが誤りを正そうと注意した。
「えへへ、ごめんなりな」
茉琳は、後頭部を掻きながら、笑って誤魔化す。
「それで、今日いきなり、外で女子会するって言うじゃないですか」
と1号夏目。
「これは付いていかないとって」
と2号鎌田。追っかけ2人の同席の訳が明かされた。
するとカオリンが徐に立ち上がり、
「この子もプライベートで、色々あって悩んでいたの。だから今回呼んでもらって、それが少しで紛れれば良いかなって。本当にありがとう」
頭を下げた。
「別に気にしない。いいなり、いいなしよ。今日は私のお礼ってことなんだし、喜んでもらえてくれればいいなりよ」
茉琳は、恥ずかしさを隠しつつ、みんなの前で和かに、
「さあさあ、麗しの姫の貴重な寝顔か! はたまた、秘仏のご開帳か! サカナは満足なしか! 宴会は始まったばかりですなり。楽しんでくんなましー」
宴は続いていった。
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