第22話 宴もたけなわ。宴も終わる。そして

 茉琳は、1号夏目、2号鎌田2人と話を続けている。

 かおりんはライトカクテルのグラスを静かに傾け、お誾さんはといえは、テーブルの上の料理を摘みながら地酒の麦焼酎をメニューに見つけて飲んでいた。


「そうなしか、あの崇子様がお付きになって、あきホンの女房のお役目してたなりね」

「そうなんです。えっ茉琳さんは崇子様をご存知なのですか?」

「直接の面識はないなり。歳はウチの2つ上なり、先輩なしな。皇族の血筋に連なる一族と聞いてるなり」


 茉琳は、テーブルの上の海鮮サラダをつつきながら話をしている。


「お姫様だったんですね。それが王子の教育係を仰せつかっていたんですか」

「2学年に上がった頃から王子のご指導されたようで、半年も経たないうち別人のようになられて」

「夏目さんも鎌田さんも、あきホンと同じ学年なしね、そんなに変わったなりか?」


二人と 茉琳には1学年違う。そうなると校舎が同じでも階が違ったりと、接点がほとんどなかったりする。


「ねえ、鎌田さん、王子が変わったのって、あの時期よね」

「それまでは、割と粗野な話し方をされていたと聞いています。すみません。私たちも学年が同じでもクラスが違うんです。詳しくはわからないんです」

「何かにつけ、崇子様の後をつかず離れずしていましたし」

「よく、崇子様に、言葉遣いとか指導されてましたね」

「そうそう思い出した。壁越しに叱咤する声が聞こえていました」


 ふたりは、当時を思い出しながら話を続けていく。


「そうなりね。お姫様なだけあって行儀作法に厳しい方だったなり。なってないって、ウチのクラスでも何人か、お叱りを受けたって聞いたなし」

「そういう崇子様にビシバシ、指導受けていたんてんすねぇ」


 3人はあきホンを見る。

 あきホンは未だ、上体を起こしたまま佇み寝息をたてている。茉琳は彼女の横で目を瞑り静かにカクテルを呑んでいる、かおリンに目を向けた。


「かおリンは、どうだに? いつも一緒にいるなしね」

「私も高等部に上がってからのお付き合いでしたからね。出会った時から今の感じでしたよ。お嬢様言葉って言うんですか、ご機嫌よろしゅうとか、ごめん遊ばせとか、そう言う話し方されていましたよ」


 彼女は片眼だけをすっと開けマリンたちを静かに見返してきている。まるで、これ以上あきホンの事情に関わるなっと言う具合に。


「ひぃー」

茉琳は体を震わせた。背中を冷たいものが流れていく。

「かおリン、なんか怖い。ブルブルなり」



 そこで、茉琳は微かな振動音を耳にした。スマホのバイブ音。自分のではないかと疑い壁際にいくと着ていたジャケットのポケットに入っているスマホを取り出した。


「翔からなり。そうか、迎えも頼んでいたなしね」


 スマホの画面は、予約した時間の終了時間が近いことを表示している。翔からも迎えに向かって良いかの是非の文字が映し出されていた。


 茉琳は、皆に振り返ると、


「みんなぁ、そろそろ、お開きの時間なり。来てもらって嬉しかったなり。おーきになぁ」


 テーブルについて飲む最中。食べている最中。おしゃべりの最中。皆皆、帰り支度始めて行く。そんな中、


「茉琳さん」


 1号夏目である。


「王子の目が開かない」


 2号鎌田も、


「王子。王子、起きてください」


 と、あきホンに声をかけているのだけれど反応がなく、困った顔を茉琳に見せていた。


「仕方ないなしね」


 茉琳は、あきホンに近づいて彼女の肩を揺するのだが反応はなかった。


「起きないなり。そうだ!」


 茉琳は、指を立てた。何か良い考えが浮かんだようだ。そして、あきホンの頭にを近づけた。

「あんだけ、赤かった顔はシラフに戻ってるなし、こんなに早く戻るなんて、あきホン、無敵な肝臓持ってるなりな。もう醒めてるなし…」


 さらに耳元に唇を近づけていく、そして、


「崇子様お見えよ!」


 と告げた。

効果覿面。あきホンは、肩を振るわせると眼を見開き、自分の服の乱れを直し、髪を整え、表情を改めて居住まいを正した。


「………」


 暫く、そのまま固まっている。その内に視線を泳がせ始め、人を探し出す。そして、茉琳の方を向いた時、


「あ、あれ、あら、あらぁ、茉琳さん。つかぬことをお聞きしますが…」


 嚥下する素振りを見せて、


「崇子様は何処でありやしょうか?」


 緊張した面持ちで茉琳に問いただした。茉琳は、そんな、あきホンを見つめると、相好を崩し、


「居ないなりよ」


 にっこりと微笑んで答えていく。


「!」


 あきホンは茉琳を見つめ、目を見張る。視線を左右に揺らすと、


「本当に」

「本当なし」


 彼女は息を吐き出し、肩の力を抜いた。


「はぁー。驚かさないで頂けますか。心の臓が止まるかと思いました」


 安堵の言葉がつぶやかれる。


「茉琳さんも人が悪うございますよ」

「だって、あきホン、目が覚めないし。起きないなり」


「え?」


 一瞬、彼女の顔が惚ける。


「私くし、起きませんでしたかしら………」


 彼女は、呆然と自分のことを思い出そうとする。


「お酒を戴いて………寝てしまったのですね。お恥ずかしい」


 と、せっかく酒精が抜けて白くなった頬が染まる。


「「きゃー! 王子のハニカミ♪───O(≧∇≦)O────♪」」 


 王子の追っかけ2人が手を取り合って歓喜する。


「お二方も、お巫山戯がすぎましてよ」


 あきホンは耳まで赤くなっていく。


「「「きゃー! 王子のハニカミリターン♪───O(≧∇≦)O────♪」」


「もう、怒りますよ。お二方」

「「はぁーい」」



 怒られては、堪らんと2人は自分達の荷物を持って出て行こうとする。


「ウチが会計をすましておくなり。みんな、外で待ってておくんなまし」


 茉琳は壁に掛かったコートをハンガーから外して、あきホンへ渡す。


「もう、すっかり起きたなし、外に出て待っててくれるなりか?」

「恥ずかしくて、何処かへ隠れてしまいたいですね」

「まあまあ、機嫌を治してなり。でも、あきホン?」

「はい、なんですか?」


 茉琳は、あきホンの顔を見つめて、


「あきホン、お酒に強いなりなぁ。あれだけ赤かった肌が、真っ白なり。あきホン、結構、酒豪なりや」

「茉琳さん!」

「ははは、先に行ってて待っててなし。それと今日はありがとなりね。うちも楽しかったよ」

「また、お呼ばれして頂けますか?」

「もちろんなり」


 茉琳は笑顔で彼女を送り出した。あきホンも笑みを残して退出していく。テーブルに残された会計を手に取り、


「お勘定お願いするなり」 


 と店員に告げ会計に向かった。




 数日後、茉琳は、あきホンと大学の中で出会う。

 しかし、傍には男がいた。深層の御令嬢と思われた、あきホンに連れができていたのである。

 しかも彼女は笑みを浮かべている。幸せ一杯という顔をしていた。

 あきホンは、茉琳に気づくと、小走りに近づいて茉琳の手を取る。


「茉琳さんのおかげで、大切な殿方と再び会うことができました。なんとお礼を言えば良いのか」


 あまりの話についていけずに茉琳は目を白黒させている。


 あの後、一悶着があったのだか。それは、また別のお話。


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