第20話 正体見たり

 茉琳も含めて、総勢6名の参加者はテーブル席へ案内された。


「ごめーん。茉琳さん。どうしても付いて行くって二人増えちゃった」


 カオリンが恐縮して謝っている。


「王子の追っかけやってまぁーす。1号夏目でぇーす」

「同じく、2号鎌田でえーす」


 そう言う二人をあきホンは目を細めて嗜める。


「皆さん、他のお客様にご迷惑をかけない様にお願いしますね」


 しかしながら、茉琳は和かに、 


「賑やかで楽しそうなり。良いなり。良いなりな」


 既に雰囲気を楽しんでいる。

 そして、ジャケットを脱いで壁にあるハンガーへ掛けていく。


「あきホンもカオリンも貸してなし」


 アキホンはハーフコートを脱いで、カオリンはマウンテンジャケットを脱いで茉琳に渡していく。


「あきホン、そのスカート、なかなか良いなり。似合ってるなり」

「そうでありますか。嬉しいものですね」」


 空色のマキシ丈スカートを褒められて、にっこりと微笑み返している。因みにカオリンはデニムのスリムパンツだったりする。


「「きゃー! 王子の微笑み♪───O(≧∇≦)O────♪」」


 自称追っかけの二人が感激している。


「王子ってあきホンのことなしか?」

「「はいぃ。そうなんですウ」」


 茉琳は、興味津々といった具合に件の彼女を覗き見て、彼女も苦笑い。


「王子というより、“姫“と、ちゃいません?」


 そこで、追っかけ1号こと夏目さんが、

「いえ、私たちが、中等部でお見かけした時から王子は、王子様なんですよ」

「そうなんですよ。体力測定ってあるじゃないですか」


 追っかけ2号の鎌田さんが続ける。


「王子はその時の短距離走、ぶっちぎりの速さなんでしたの。走り幅跳びの記録も聖皇のタイトルホルダーなんですよ。あっ、聖皇ってこの大学のことですよ」

「ここって大学は門戸を開いてますが、幼稚舎からの一貫校なんですね。中等部でいきなり記録連発で一躍躍り出て、時の人になりまして、それでついた偉名が”王子”何ですよ。走っているお姿が凛々しくて」


 追っかけ二人の熱弁がヒートアップしていく。


「お二人とも、その辺りで、ご容赦をお願いします」

 

 あきホンが頬を染めて恥ずかしそうに2人の語りを終わらせようとしてくる。 


「♪───O(≧∇≦)O────♪」


 2人は、止まらない。


 しかし、


 「あっー! 思い出したなり。いたなしね。そんな野猿みたいのが」


 揺れ立つ水面に、さらに石が投げ込まれた。


「野猿⁈」


 それを聞いて、あきホンは呆れた。


「王子を知っているって⁈ 茉琳さんって、この聖皇の生徒だったんですか?」

「そうなり」


 追っかけさん2人は揃って茉琳を凝視する。


「つかぬ事、お聞きしますが、茉琳さんの苗字は?」

「ウチなり? ウチは御影、御影茉琳っちゅうによろしくなり」

「………………………………、            氷姫 」


 おふたりとも、絶句して、しばらくしてボソッと呟いた。そして、いっそうジロジロと茉琳を凝視していく。


「そんなに、見つめないでほしいなしー。恥ずかしいなり」


 茉琳はふたりの視線に恥ずかしがり身を捩っていたりする。追っかけさんは顔を見合わせてから、あきホンに問う。


「王子は、彼女のことをご存知だったのですか?」

「ええ、お名前をお伺いしておりましたので。しかし”氷姫”とは何ともはやでありますね」

「「全然、違ってるぅ」」

「あの、目元涼しくて、凛としたお姿であったのに」


 3人にジロジロジロと見られて、面映くて居た堪れなくなったのだろう。


「さあ、お品書きなり。みんな、好きなの選んでなし」


 照れ隠しのつもりで料理と飲み物が載っているメニューを全員に配っていく。


「あきホン」


 そんな中、茉琳は顔の表情を改めて、あきホンに謝りを入れる。


「お魚の煮物があるって言ってたの、間違いなり。お刺身や揚げ物はあるけど、煮物はなかったなりな」

「いえ、大丈夫ですよ。ホッケの焼いたのもありますし、鯵の干物とかございますでしょう。充分でありますね」


 茉琳は肩の力が抜けたようで、ほっとした顔をして、


「そう言ってもらえてよかったなしな。鯵の干物にはビールが合うっちゃ! とりあえずビールで乾杯にぁ。店員さん生ビールくださいなりぃ」 


 茉琳は、ディッシュアップを呼ぶ。各々も料理を頼んでいった。間をおかずにテーブルの上に料理とビールが注がれたダンブラーが並び、


「乾杯」


 宴が始まる。

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