第14話 2人の歩き始め

 ペットショップを出てから気まづい時間が過ぎていく。


「翔。ごめんなしー、ウチが変なこと言ったばかりに」


 茉琳は、自分の前を歩いている翔に声をかけている。謝りを入れているのだけど、


「別に、気にしてないよう。まあ,驚きはしたけどね」


 翔は、茉琳を見ずに答えていく。


「あっ、待ってなしー、歩くの早いなりぃ」


 茉琳大学構内を歩き回り、翔を探した。

 運良く見つかったものの、指がむき出しのサンダル履きだったせいで怪我をしていた。    それを知らない彼は、どんどんと先にいってしまう。


「いきなり 『ハラヘッタ』だの、『クイタイ』だっけ、あんなこと言うんだもんなぁ」


 やはり、彼は後ろを振り返らずに先を歩いていった。

茉琳は追いつこうとしたのだが、


「つっ」


 足先から痛みが駆け上がり、歩みを止めてしまう。しゃがみ込んで、痛めたところを覗き込んだ。血の滲む足の指を見て、途方に暮れていた。


「中にいるペットまで黙っちゃうみたいだったけどね……、あれ?」


 自分は話をしているけど彼女の反応がないことに、翔はやっと気づいて振り返った。

 そこでやっと道端でしゃがみ込んでいる彼女を見つけた。慌てて彼女のところまで彼は戻った。


「ちょっと、どうしたの? あれ。それって血じゃ」

「こっ、これは……」


 茉琳の言葉が詰まった。異変を察知した翔は彼女へ駆け寄る。

 ふらっ!僅かに揺らぐ彼女の肩を支えていく。


 蹲ったままの彼女の顔を覗き見ると、表情が抜け落ちている。微かに開いた口から呼気が,わずかに動いている肩が茉琳が生きていることを示している。


「もう、ほっぽり出すなんてできないじゃないか」


 翔はひとりごちる。以前,彼はキャンバスで、同じように気を失った彼女を放置した。あの罪悪感は持ちたくないと思っていたところであった。


  かはっ


 茉琳は息を吹き返す。表情を無くし強張っていた表情が解れていく。翔は目を離すことができなくなった。あまりにもあどけないのだ。退廃的に見えた雰囲気がない。無垢な表情をしている。


「ごめんなし、ウチは、たまにこんなんなってしまうんよ。どうしようもならんなり」


 茉琳は力無く言葉を呟いていく。


「今度、病院にいくんだけど、こんなんじゃ怖くて行けないし」


 彼女の目が潤む。


「1人で行って意識失ったらと思うと」


 薄く,濁った涙が頬を流れる。


「ねえ、付き合ってもらえないかな。行ってくれるだけで良いから」


 茉琳は翔の顔を仰ぎ見る、


「お願い」


「あのさあ」

唐突に翔は茉琳に話しかけていく、彼女は身構える、


「さっき、地下鉄の駅の階段で荷物持つの手伝ったよね」


パチクリと彼女は瞬きをする。


「なんで?」


 翔は茉琳に問うた。


「だって,あの時って翔はあの人助けたかったなり? ウチだってそばにいて何もしないわけにはいかないよう」


 翔には中学、高校と同じ境遇にあった仲間がいた。いじめである。そして誓ったことがある。


「そういうことは見ないことにはしないなり」


 そう,2人で誓い合った。


「わかったよ。病院でもどこでも付き合ってやる」


 翔は宣言した。誓い合った相手は、既にこの世にいない。せめてと思ったんだね。

 因みに相手は女の子。仄かな恋心もあったりする。

 そう聞いてマリンの顔が綻び、満面の笑顔になっていく。


「そうなり、嬉しいよう」


 そんな彼女を翔は好ましいと感じた。


「お金も出すよ」

「交通費だけで良いからね」

「うー、そうだ。アルバイトだと思ってなし、なら良いなりね」


 翔は苦笑する。これなら後ろめたいことはない。


「じゃあ帰ろうか」


 時間も幾分過ぎたので帰ることを提案する。


「どう、歩けそうか?」


茉琳は立ち上がり、足先の具合を見た。


「なんとかかな」


 試しに少し歩いてみるのだが、ぎごちない。指先を庇ってしまうのだ。


「仕方ない、もっと寄って、家まで肩ぐらい貸してあげるから」


 茉琳は、再び笑顔を爆発させて、彼に寄りかかっていく。え


「ありがとうね,カーケールくん」


 それを聞いた翔は不思議に思う。あの子と喋りが一緒だったのだ。


 しかして、なし崩し的に茉琳の住処を知ることになる翔であった。


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