第9話 悪意の抱擁
その日、大学構内 2号館の2階にあるカフェテリアに茉琳はいた。
壁に手を添えてゆっくりと歩いている。時折り、頭を左右にフルフルと振っているのは誰かを探していたのではないだろうか。
そうこうしていると横合いから声がかかる。
「yo’yo’yo! マリン誰かっちぃ探してるぅ?」
真っ白いデザインロンTにカーキをのワークパンツを履いて、カフェテリアの椅子に崩れた格好して座っている脱色しているドレッドヘヤーの男が茉琳に声をかけてきた。
「あぁー、えーと…ギグッチだっけ?」
「俺っちのこと忘れてる! ヒデーなあ・おい。可愛いマリンちゃんのツバメのギグッチじゃねえか! yo'yo」
「ごめんねぇ、最近、ボーとしちゃてて」
「na’na ひどくねえ。ひじりの奴がおっちんでボケたかね。よー」
「そ、そうじゃ…」
怯えて、茉琳は答えようとしたが、言葉を詰まらせる。大きく開かれか眼なこが潤みなじめ、最初は一雫、すぐに滂沱の涙が流れ散る。
「あれ、あれあああれ」
茉琳は、慌てて流れ出す涙を拭おうとした。
「oy’oy’ ヒジリを思って泣くんかねえ。健気だね。ya’ya」
ギグッチと呼ばれた男は、泣き出す茉琳を見て、呆気に取られて茫然としていたのだが、そのうちに半分寝そべっていた椅子から起き上がり、立ち上がって茉琳に近づいていく。
「ヒジ公の奴も幸せだね。ハッピーだねえ。おっちんでもお前を思って泣いてくれるスケがいてくれるなんてよお」
「ウ、ウッ、ウチ」
茉琳は近づいてくる男に身構える。男の顔を見て、にやける顔を見て怯えた。
「na'na そこまでの愛を俺っちにもくれないかあ。俺も愛に飢えてるだぜえ。どうせヒジ公はいないんだ ya’ya」
「うちにはひ、ヒーくんがいるんだしー、だか…」
恐怖に彩られた目で茉琳は男を見返す。
「uy'uy あいつは、おっ死んだんだ。いないんだよなあ。だから俺がお前を愛してやる。彼奴の代わりに優しくしてやる。愛してやる。だから、俺にしとけ。ei’ei love l'love」
「い、いや、いやあ。ウチにはヒーくん、ヒーくんしかいないの。あんたなんか、いらない。ひっ、ひっーくんたすけえ」
「da’ ダメ、ダメ、彼奴はいないんだよ。俺のものになれっつんなあだね」
男は、勢いをつけ茉琳に近づいていく、手を広げて抱きつこうとしていた。逃げようと踵を返したところでマリンはギグッチに抱きつかれてしまった、
「いやぁ、離してえ、お願いえ、離してえ」
茉琳はしきりに体を捻り、抱きつかれた腕を解こうとするが外れない。
「マリン、おめっち、柔けえなあ。抱き心地いいぜぇ」
更にギグッチは茉琳の首元にしゃぶりついていく。
「いやぁ、ヒーくん、ヒーくん助けてよぉ」
「おめえ、何、食ってるんだあ。甘い香りはするわ、しゃぶりつけば汗まで甘いぜえー」
「いやぁ、いやあぁ、ヒーくん。誰かぁ」
茉琳は体を捻ったり、上下に動かして男からの拘束を外そうとする。しかし一向に外れる気配がない。そのうちに男はマリンの胸に手を動かして鷲掴みにする。
「o’o'オッパイすげえや。柔らかくて指が潜りこんでくぜえ」
「いたぁい、痛い。いたぁイジシー。放しつてえ」
あまりに痛いのだろう、茉琳は足を振り回し出した。
そのうちに幾つかのテーブルを巻き込んで、茉琳は蹴飛ばしてしまい倒してしまっている。そして、そこに座っていたものたちを驚かしてしまう。
あまりの行状に我関せずにいた学生たちも騒然として騒ぎ初めていった。
そのうちの1人が茉琳たちに近づいていった。上着のジャケットの一部が濡れて変色している。茉琳に抱きついているギグッチの側まで近づいて、彼に抗議した。
「もう、やめませんか。彼女、嫌がってますよ」
「なにいってるのぉ、俺っちは、ペピィとloveしてるだけよぉ yo`yo'」
「そんな、いちゃついてる様には見えないけど」
男の怒気が膨れ上がる、
「こっのや…」
「翔!」
男の喋りを茉琳の叫び声が遮った。
翔 翔 翔
茉琳の中で彼への想いが膨らむ。
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