第26話 想いが溢れていくの

 車窓を景色が流れていく。民家のそばを電車が通っているからかオフホワイト系の外壁とかパステルカラーの屋根なんかが見えるの。


   カタン カタン

   カタン カタン

一定のリズムで社内に車輪からの音が入ってくるのよね。


 目の前には翔がいる。

 ローカル電車で、とある場所へ向かっている。運良く対面シートの窓際に座れた。彼はスマホを操作しながら画面をタッチしている。

 優しい彼。こんなおかしい私に付き合ってくれている。大事な時間も費やしてくれる。    

 なんでって思う。確かに茉琳の中にいる私とは仲間だと言ってくれた。困ったら助け合おう。困っている人がいたら手を差し伸べてあげようって誓ったのに。


 なんで? 


 なんで私のために。再度、考えてしまう。はっきり言おう。私は彼のことが好き。好きなんだもん。だから私のことなんかほっといて自分の事を優先して欲しいと思うの。

 でも、茉琳のために、一緒にいてくれる。茉琳と私は同じ体を共有してきるのだから、私も大事なんだと思うのは欲目かな。


   つっ


 そんなことを考えていると、光が目を射抜いてきた。車窓からは水面が見える。水面を反射した光が窓を抜けて中を私に届いたんだ。景色が変わり、


   ガァー、


 社内に入ってくる音も変わり、電車が橋の上を走っているのがわかった。


   ん? ひかり?


「ねえ? 翔」

「うわっ、何? いきなりで驚いたよ。どうしたの」

「ごめんなっし。前に街中に光の柱が立ったの覚えてるなり?」


 そうなんだ、地方ニュースにもなったぐらいなんだよ。朝方、2本の光が地面から天に伸びたのね。

 なんで、こんな話を私は翔にしているんだろう。会話がなくて苦し紛れに話できるわけじゃない。


「そういやぁ、そんなことあったね。ネットでも、その話が上がってた」


 不思議なことに見ることはできても、カメラには映らなかったの。


「うち、その光を見たなしな。朝方、なんか早く起きちゃって、何気に外を見たら光ってるなり」


 胸騒ぎというか、胸がざわついたんだ。茉琳は寝てたけどね。


(別にいいじゃん。睡眠不足はお肌の敵よ)


 彼女が愚痴っている。


「なんか、良いことあるかな? 縁起が良いかもなりね。得したなしー」 


それを聞いて彼が破顔した。 


「そうだよ。きっといい事、起こるって。うん。起こるよ」


 翔も頷いてくれた。彼も私が突然、意識を失うことを知っている。寧ろ一番の被害者になっている。


「ありがと」


 私は微笑みと共に返事をする。彼が私を気遣ってくれるのは、めちゃ嬉しいの。


   でも、


   あれっ、あれれ?


 涙が滲み出でて視界を塞ぐ。

 そんな彼の心と貴重な時間を奪ってしまうのが苦しい。そして悲しいの。


「あれ、どっどど、どうしたの? 俺が変な事いったかな」


 彼が慌てている。その気遣いに、とうとう目から涙が溢れてしまった。私は手で顔を覆い俯く。


そうしないと、もっと彼を慌てさせる気がして、

こうしないと、何よりも私が恥ずかしいの。


 真っ赤になってる顔を翔に見せられないよぉ。

 私は彼が好き。何度でも言いたい、好きなんだよ。


 私はすぐ、ハンカチを取り出すと瞼につける。滲んで流れ落ちようとするマスカラを抑えるため。


「ごめんなっしー。強い光にやられて涙でちゃった。こんな時ってあるなしね」

「確かにね。欠伸すると出たりするしね」


 なんとか誤魔化せたかな。


『C♩G♩ 列車が到着します。御出口は向かって右側になります。足元にご注意ください」

チャイムが鳴りる。降りる駅に着くようね。丁度よかった。


「だから、降りたら洗面所で手直しするなり。待ってて欲しいなしー」

私はハンカチで頬を隠して顔を上げて翔に頼む。だって頬がまだ熱いの。火照りが取れないの。

「了解」


 快く返事をしてくれた。

 そして列車の自動ドアが開いた。翔は私の開いている手を取ってくれた。

 そして手を繋いでホームに降りたの。


  ふふふ


 なんだろう。私の嬉しいを彼に伝えたい。どうしても伝えたくなった。


  ふふふ


 そうだ。私は翔に握ってもらった手を引く。彼は驚いて私を見てくれるの。私は自分の顔の表情を消す。

 すると、


「茉琳!」


 翔は、

 私が意識を失ったと勘違いをして、倒れないように体を支えてくれる。そのために近づくの。

 私は、近づいてきた彼に手を伸ばして抱きついた。彼の頭をかき抱き、胸に埋めてあげた。


(やるねぇ、茉莉! ヒューヒュー)


 ちゃかさないで欲しいな。


さらに加えて、彼の頭に頬ずりを………。


⭐︎


かはっ


 息を吐いた。呼吸ができた。意識が戻る。


「ちょっ、ちょっと、茉琳さん」


 あれっ! 何か黒いものを抱いている。これは髪の毛だよね。…ってことは、翔⁈ 私は彼の頭を抱きしめているの。


  なんでー、


「目を覚ましているなら、離してくれるかな」  


 あー、意識を無くしたふりをしたら、本当にやらかした。


意識を失ったんだ。


「ごめん、ごめんなっシー。ウチ、ウチ」


 おふざけが過ぎたね。本当に意識失っちった。神様か罰をくれたんだねえ。


「無事に息を吹き返してくれてよかったよ。心配させるなって。気が気じゃないんだからね」


もう、この人は!


「翔!」

「ストップして」


 私は、自分を抑えきれずに彼に抱きつこうとしたのだろけれど、止められた。

そうなのよ。彼は…


「茉琳。知ってるでしょ。俺は女性に抱きつかれると過呼吸になるの」


 昔のいじめでのトラウマが出でしまい。息ができなくなってしまう。


「でもぅ、うちじゃ出ないって行ってなかったなシー。大丈夫なはずなり」

「それがこの前、茉琳に抱きつかれた時に出かかったの」



 えっ、それっていつ頃なの?


(女子会の前、茉莉、あんたがシャボン玉吹いた時だよ。翔に発情して抱きついたんだ)


 あー、あの時かぁ。


「ごめんなり。翔」

「わかってくれてよかったよ。ほれ、握って。立ち上がれそう?」


 すると彼は、又、私に手を差し伸べてくれた。私は、その手を握り、立ち上がる。

 やっぱり彼は優しい。私を気にかけてくれている。

 そして彼は私の手を握り、ホームにある階段を登っていく。引っ張られていく私は両手で彼の手を包んだ。


「ありがとう。好きよ」


 彼に聞こえないぐらいだろう、小さく呟いたの。えへっ



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