第19話

「と、とにかく、私に新しい婚約者は早すぎます!」

「ならば、婚約者候補として、考えてくれないか」

「わ、わかりました。時間をください。そしたら、落ち着いて考えます」

「うれしいよ」

「う、うれしい?」

「きゃ~♡」

「か、かっこいいですわ…ルドルフ様…」


アルセウムの顔は、見たこともない顔で笑った。

屈託のない笑顔。

今まで、笑った顔を見たことはあるけど、いつも嫌みったらしく、いじわるな顔で、笑うばかりだったアルセウムの顔が、本当にうれしいとでもいうように、優しかったからだ。

それを見た女生徒が、色めき立っている。


「あんな女になぜ…」

「もったいない…私だったら、すぐにオッケーしましたのに」

「そもそもなぜ、あの女に選ぶ権利が?」

「どこらへんがいいのかしら」

「やっぱり珍しいから?」

「……」


色々な意味で頭が痛い。


「アリシア!」

「おはよう、アンデス」


朝から、疲れた。

さっそく椅子に座り、ベターと机に突っ伏していると、アーサーが駆け寄ってきた。

そして、自然な動作で、隣に座った。

いや、もう別に何も言わないわよ。


「おはよう。アリシア。とってもいい朝だね…って聞いたよ!婚約破棄した上に寮の前で、待ち伏せされたんだって?」

「お話しが早いことですこと」

「僕も駆け付けられたらよかった。ごめんね。これからは、僕が送り迎えするよ!」

「だ、大丈夫よ。ご心配には及ばないから」

「でも、例の彼の家、今大変なことになっているらしいじゃないか」

「え?」

「詳しくは知らないけど、僕の父が言うには、そうとう厳しいみたい」

「そ、そうなの?」


だから、あんなに必死だったのね。

私の家の事業が失敗したという話は、嘘だと分かったのだろう。

おまけに婚約をしていた時に援助していたお金が、止められたのだろう。

今回は、向こうが婚約破棄をしたということで、多額の慰謝料も発生しているはずだ。


「だから、学校を中退するかもしれないって」

「中退?そんなにお金に困っているの?」

「うん。そうみたい」


この学校は、貴族が通う名門校というだけあって、学費がとても高いのだ。

それだけにこの学校に通うこと、卒業することは、それだけで平民にとっては、ステータスになる。

それなのに、貴族である彼がこの学校を中退するなんて、どれほど屈辱的なことだろう。


「彼、女子寮に忍び込んだらしいし、今回の騒動で、退学させられるかもしれないって噂も流れてる」

「噂って流れるの早いのねぇ…。でも、彼には新しい婚約者がいるから、大丈夫よ」

「うん…そうだといいけど」

「アーサー…」


地を這うような声。

その声にぎくりとする。


「ミア」

「おはよう。アーサー」

「んぐ」


私の間に無理やり入ってきたミア嬢。

体を無理やり押しやられて、苦しい。


「私、別の席にうつるわ」

「ええ。そうしてちょうだい」


つん、とそっぽを向いているミア嬢は、あいかわらずだ。

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