第11話

色々なことがあり、私もさすがに疲れた。

外泊届けが受理された週末に、私は実家に帰ることになった。


ーがたん。


列車が大きく揺れた。

私は、その衝撃で目が覚め、窓の外へと目を向けると、実家の最寄り駅までもうすぐであることに気づいた。

のどかな風景だ。

小さい頃の私は、このなにもない風景が、つまらなくてしかたなかったが、忙しない都会とは、また違ったよさがあることに、最近気づいた。

迎えは、呼んでいないから、駅から屋敷まで歩いていかなくてはいけないが、散歩程度の時間と距離しかないから、問題ない。


久しぶりの故郷に、私は安堵の息をついた。

学校が楽しくないわけではないが、疲れるのは確かだ。

おまけにここ最近は、監視されているみたいに見知らぬ生徒やら先生までもが、じろじろと見てくるものだから、たまらない。

平民の子どもが、貴族の学校に通うことを嫌がる先生もいるのだから、平等とはほど遠い。

明日は快晴らしい。庭師のトムが、丁寧に世話した庭で、お茶をするのもいいだろう。

扉を開けるとメイドのマーサが、出迎えてくれた。


「ただいま帰りました」

「おかえりなさい。お嬢様。おかわりないようで」

「そんな短期間で変わらないわよ」

「いいえ!子どもというのは、とても順応性が高いですからね!お嬢様がお貴族様たちに感化されて、変わっていてもこっちは、驚きませんよ!私が、今までメイドとして、働かせてもらっていたところだって、最初は優しい子どもが、学校へ行ったとたん豹変することだってありましたからね!」

「あら、そうなの。でも、私はあなたに辞められたら困るし、母も困るでしょう。失礼な態度なんてとれないわ」

「それが、貴族たちは違うんですよ!あいつらといったら、メイドなんていくらでも替えがきく代替え品としか見てないやつらのなんと多いことか!」

「そうなのね・・・」


メイドにも色々とあるもんだ・・・。

マーサは、私が小さい頃から家で働いているハウスメイドである。

貴族のなかでは、大人数のメイドを雇っているところがあるが、うちはそこまで屋敷が巨大というわけでもないので、マーサとメアリの二人で、屋敷を掃除してもらっている。

メイドにも階級制度というものがあり、他の屋敷で働いているメイドは、色々と苦労することもあると聞く。

それらを束ねるのが、その家の主の奥さん、女主人だというのだから、平民から貴族へ嫁ぐ人は、大変である。

メイドにもなめられたり、嫌われたりすれば、どうなるのか・・・そういった苦労話が書かれた本を書店でみかけることもあるくらいだ。

私が、アーサーと婚約したくないのもそういう理由があるからだ。

私は、貴族のことについて、あまり知らない。

ましてや、アーサーなんて伯爵貴族の名門である。

屋敷は、巨大で使用人も大勢いるだろう。

それらをまとめられる自信はないし、アーサーの言葉を信じるならば、彼はたぶん私を助けてくれないだろし、フォローもしてくれないだろう。

最悪である。

絶対に嫌だ。



その日の晩。

父と母が、張り切って用意してくれたプレゼントやら豪勢な料理の数々に今日は私の誕生日だったかしらと、遠い目になってしまった。

なんでも、家族全員で、私の帰りを心待ちしてくれていたらしい。

胸が、ほっこりすると同時に今から聞かなくてはいけないことに胸が重くなる。


「事業が傾いているか?」

「はい。学校で噂されているものでして」

「ほう・・・貴族というのは、他人のゴシップが好きなんだなぁ。平民と変わらないじゃないか」

「楽しみがそれくらいしかないんじゃないんですかね」

「事実無根だな」

「安心しました」

「ところで、エルサイム家から婚約破棄をしてくれとの手紙があったが、ロミオ君とはうまくいっていないのかね?」

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