第24話

ロミオの家とその婚約者の家が、没落したという噂は、すぐに流れた。ロミオの新しい婚約者であるレイラは、毅然とした態度で、浮気をしていた時と何も変わっていない。「わたし、何かしました?」みたいな顔でいつも廊下を歩いている。


反対に肩身が狭そうなのは、ロミオのほうだった。

こそこそと猫背になり、隠れるように廊下を歩いている姿を見かけたことがある。

私の顔を見るなり、走ってこちらに来ようとした時もあったが、リリーや、ルドルフ、それにアーサーが、前に出てきて彼を追い返していた。


「手紙まだ来てるのね」

「はい」

「捨ててもよかったのに」

「差出人が書かれておりませんでしたので」

「え?」


手紙は、確かに何も書いていない。

いつもであれば、ロミオの名前が書いてあるのに…。そういえば、最近は何も書いてない手紙が来るようになった。てっきり、ロミオからだとばかり思っていたが。


「どうせロミオからでしょう。捨てていいわよ。別に」

「私が、勝手に捨てるわけにもいけないので」

「まぁ、あなたなら、勝手に捨てないわよね」


手紙の封を切り、中身を見る。


「……」

「どうしました?」

「んー」

「なにか変なこと書いてありました?」

「そういうわけじゃないんだけど…」


―君のことを愛している。


それだけが書かれた手紙を見せる。


「…それだけ、ですか?」

「うん」

「珍しいですわね。いつもでしたら、長々と書かれているのに」

「そうなんだよね。いつも言い訳がましく書かれているのに」

「シンプルイズベストと思ったのでしょうか」

「んー…なんか、筆跡が違うような…」

「筆跡ですか?…確かに、少し…綺麗?」

「…ね。字、綺麗よね。ロミオは、こんな字書かないよ」

「では、違う方からということになるのでしょうか」

「それは、それで厄介…。この手紙、リリー宛てってことないかな?手紙を間違えて、私のベッドに置いちゃったとか」

「…私に宛先不明の手紙を送られてくる覚えはないのですが」

「それは、私もだよ…」

「それにしても、君のことを愛している、だなんて熱烈な方ですわね」

「見も知らない人間から、送られてきた言葉にしては、重いけどね」

「…アリシア」

「リリー?」

「いえ、ただのいたずらでしょう」


ニコッと笑うリリーは、どこかおびえている。

当たり前だ。知らない手紙が、置かれていて、差出人は不明。

それでいて内容は、君だけを愛しているでは、生粋のお嬢様の彼女にとっては、不気味でしかたないだろう。


「とにかく今日、ここを掃除した使用人の方に話を聞いてみましょう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る