第7話
「手を放してくださる?」
「この席、空いてるんだ。ここで、いいじゃない」
「私が嫌なの」
この席は、(アーサーの隣の席は、いつでも)あなたの幼馴染の特等席でしょう。
私の拒絶の言葉に、アーサーはショックを受けたらしい。
今まで、大切に守られ、過保護に育てられたおぼっちゃまは、自分のお願いが拒否されることがあまりなかったのだろう。
「どうして?」
「あなたの幼馴染がいるじゃない」
「ミラのこと?どうして、ここでミラが出てくるの」
「あなた、いつもその幼馴染と一緒に座っているでしょう?だから、」
「それなら、大丈夫。僕、ミラと喧嘩したから」
「…え」
あの束縛女と喧嘩した?
なにが、大丈夫なのか分からないけれど、お貴族様も喧嘩するのね…。こう、水面下でバチバチ火花散らしながらも、表面上では、涼しい顔をしているイメージだったのだけれど。しかも、この誰にでもお優しいと評判のアーサー王子が、喧嘩?
逆にどんなことをしたら、怒らせることが出来るのよ。
私は、喧嘩の原因を聞こうと、口を開きかけ、…やめた。こういうのは、変に聞いても面倒になるだけである。
「だから、僕の隣に座る人なんていないから大丈夫」
アーサーはそう言い、私の腕を引いて席に座らせた。
「… … …」
思わず座ってしまったが、考えてみれば、私はこの男と特に親しいわけではないのだから、ほかの席に座ってもいいはず。だが、なんとなくアーサーの雰囲気に気圧されてしまった。貴族の人間は、教育のせいか、たまにこうして人を従えさせることに何の気概もなくできてしまう人がいるが、アーサーもそうらしい。
「喧嘩の理由はね」
「やめて。聞きたくない」
「僕は、聞いてほしい。…ミアが、僕に強い男にならなくていいって言ったんだ」
「強い男?」
「うん」
強い男になりたいのか…。
アーサーは、確かに細いし、か弱そうに見える。まだまだ守ってあげないといけない子どもの雰囲気を持った美少年といった感じで、確かに強い男には見えないだろう。女の子と言っても通じるかもしれない。
「最近、鍛えているんだけど、ミアがそういうのやめてって、邪魔してきて…」
「はぁ…」
よくわからないが、好きにさせておけばいいのに。
「だから、僕もつい、ミアに怒ってしまったんだ。僕は、君のお人形じゃないって」
「はぁ…」
この話は、教室でしていい話なんだろうか。
周りの人間は、アーサーの話に耳を傾けている。
ただでさえ、容姿で目を引く上に家柄もご立派なアーサーのそういった事情に首を突っ込みたくて、しかたないんだろう。
「アーサー!またそんな女と一緒にいて!!!」
噂をすればである。
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