第6話

小切手を渡そうとしてくるルドルフとその腕に引っ付く浮気女レイラとワイワイ騒ぐ取り巻き女たち、それと空気と化したロミオやらで廊下は、大騒ぎである。


「そんな女、ルドルフ様にふさわしくありません!私のほうがふさわしいわ!」

「レイラ様には、ロミオ様がいらっしゃるわ!それより私のほうが」

「何言ってんのよ、このブス!私のほうが家柄もいいですわ」

「あんたのほうがブスでしょうが!しかも家柄がいいですって?はっ!あんたの家は、家柄は良くても貧乏じゃない!ルドルフ様のお金目当てなのが、まるわかりなのよ!」

「うっさいブス!」

「ふざけるんじゃありませんことよ!」


名門貴族のお嬢様とは思えない言動にドン引きである。

女の性格は、どこも変わらないのね…。

周りに集まってきた女子たちにルドルフの相手をバトンタッチして、私は次の授業の教室に向かった。

教室に入ると、身近にあった椅子に座り、机に突っ伏した。


「あぁ…疲れたわ」

「お疲れ様」

「… … …」


さわやかな声が落ちてきた。

どうやら隣に先客がいたらしい。

思いがけない声の主に胃の腑が重くなる。ゆっくりと顔を上げる。


「疲れていたから、気づかなかったわ」

「そうなんだ」


アーサー・アンデス。

アンデス伯爵家の長子であり、この男もまた名門貴族の筆頭であり、もしも、私が庶民の学校に通っていたならば、一生私と話をすることもなかったであろう男である。


困ったように微笑むその顔は、相変わらず絵本から飛び出た王子様フェイス。

下げられた眉に細められた瞳が隠れるくらい色濃く長いまつげが縁どられ、アイライン要らずの目元は、女子の羨望である。この男の困った顔は、男女関係なく、庇護欲が湧き出し、もっとこの男を困らせたいという熱情にかき乱される…ともっぱらの噂である。

顔は確かにいい。だが、私にサディスティックめいた情欲は、わかない。


「どうしたのかな」

「珍しくあなたの取り巻きがいないのね」


この男の周りには、過保護なくらいの幼馴染やら、友人やらがいるのだが、今は、珍しいことに一人である。あの人たち、私が庶民だからと悪い虫扱いしてくるのだから、気分が悪い。そういうわけで、この男から直接何かをされた覚えはないが、印象は最悪。できれば関わりたくない人間ナンバースリーに入っている。

名門貴族の学校に庶民の敵は多いのである。


「うるさくならないうちに私は、別に場所にうつるわ」

「えっ」


特にあのうるさい幼馴染が来たら、厄介である。

小さいころから、一緒にいるからと束縛女の悪いところを煮詰めたような女なのである。

関わらなければ、特に害もない。ただし、関わったら最後、割とえげつないことをしてくる上に実家の権力を使って不祥事をもみ消してくるスーパー厄介害悪女トップに君臨している。


そういうわけで、私はとっととこの男のそばを離れたいのだが、私が席を離れた瞬間、手を握られた。


「どうして。行かないでよ」


勘弁してよ。

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