第5話

「そのような平民にまで、お声をかけられるなんて、ルドルフ様ったら、お優しい」

「あぁ…。そうだな…」

「ですが、その女に関わるのはよしたほうが、よろしくてよ。だって、その女の父親は事業に失敗して、今や家は、借金まみれ!」


婚約者の浮気女…もとい新婚約者であるレイラは、舞台女優のごとく身振り手振りの大盤振る舞い。ちょっと芝居がかりすぎて、少し怖い。ほら、隣のルドルフなんて「うわぁ…」って顔が隠せてないじゃない。間近で、こんな演技見せられたら、誰でもこんな顔になるかもしれない。

貞淑な妻のように、後ろを3歩遅れて歩いていた元婚約者ロミオは、所在なさげに立っている。情けない。

どこからやってきたのか、レイラの取り巻きの女生徒たちが、わらわらとやってきて、ロミオを片手でどかした。

「え」って顔して、呆然と取り巻きの女の子たちを見ている顔が、哀れすぎる。空気と化した男ほど見ていてつらいものはない。


「あらぁ。レイラさん。それ、本当なの?」

「ええ。この女は、もうすぐこの学園から去る身の上。ですから、皆さんもお気をつけあそばせ!この女と関われば、お金を貸してくれと言われるに違いありません!もしかしたら、財布を盗むかもしれませんわ!」

「財布?」

「ですから、ルドルフ様!その女とは、離れたほうがよいですわ!」

「お金に困っているのか?」

「いえ。別に」

「いくらほしいんだ?」

「ですから、いりませんって」

「必要なら、小切手を出そう…セバスチャン!」


パンと手をたたくと、どこからともなくルドルフ付きの執事であるセバスチャンが現れる。え、どこから出てきたの?この学校は、もしかして演劇学校?舞台装置でもあるの?


「必要な額をご記入ください」

「ですから、いりませんって!」

「る、ルドルフ様…」

「金には、困ってないものでな!いくらでも取っていいぞ!」

「だから、困ってませんて」

「その女に依存されますよ!」

「金ごときで、依存してくれるのであれば、結構!いくらでも渡そう…それで、いくら欲しいんだ?」

「いらないって」

「食われるかもしれません」

「食われて本望!」

「食べませんて」


貴族ってのは、人の話を聞かないっていうのが、マナーなのか。


「財布を盗まれるかもしれません!」

「先ほどから財布財布と言っているが、お前は財布を持ち歩いているのか」

「へ?」

「ルドルフは、財布持ってないの?」

「ああ」

「… …ああ。そういえば、いつもサインだったわね」

「サインをすれば、家に請求がいくからな!」


なんだか、不用心な話だ。これで、変な書類にサインを書かされたり、金額が上乗せされても気づかないのでは?と思ってしまう。彼にとっては、些末なことかもしれないが。


「だから、財布を盗まれる心配もない!安心してくれ!…それで、いくら欲しい?」

「だからいりませんて」

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