第30話

「あなたもそういう本を読むのね…」

「……」


ルドルフのことだから、真っ先に馬鹿にすると思っていたけど。


「しかも、探偵にあこがれているなんて、貴族は、そういうものを馬鹿にしていると思ったけど」


人のことを付け回したり、調べるような職業は、まさしく平民らしい。とか、何とか言って馬鹿にしていそうなのに、憧れているなんて。


「でも、ルドルフが探偵になったら、ほかのご令嬢は、驚くかもしれないわね…って」

「……」

「…なんで顔、赤くなってるの」


ずっと黙っているルドルフの様子が変で、顔を覗き込んでみると、熟れたてフレッシュトマトか?ってくらいに顔が真っ赤だ。

熱でもあるんじゃないかと疑ってしまうくらい。


「大丈夫?具合でも悪いの?」

「ぼ、僕だって、別に最初から推理小説が好きだったわけじゃない…」

「は?」

「君の想像通り、僕だって最初は馬鹿にしていたさ。嫌悪していたといってもいい。両親から、あんなものを読んでは、馬鹿になるとずっと言われていたから、それを読んでいる人間を見下していた…」

「想像通りね」


この男、確かに頼りになるし、顔もいい。

最近、私に良くしてくれているから、勘違いしそうになるが、この男こそ、私を最初に見下し、馬鹿にしていた筆頭である。


「庶民」「平民」「成り上がり」その言葉を彼から聞くのは、日常茶飯事だった。

私も、自分の身分を自慢してくるこの男が、好きではなかった。

それなのに、今は助けてもらっている。

どうなるか、わからないものなんだな。

…なんて、小説に書いてあるようなことを思ってしまう。


「君が、それを読んでいると知ったとき、僕は馬鹿にしたさ。最初は。やはり、平民の出だから、あんなものを読んでいるのだと、失望したことさえあった」

「誰が何を読んでいようと勝手…って、ルドルフ。あなた、私がどこで推理小説を読んでいることを知ったの?この学校では部屋以外で、私読んだことないわ」

「……町の本屋であったことを覚えてないのか」

「本屋……?……あぁ」


はるか前。

入学式も終わり、授業が始まって、少し経った頃。

そのころには、寮生活にも学校にも授業にも、徐々に慣れてきたころだった。

週末は、町に出てもいいという許可が出ているため、私も久しぶりの買い物に浮かれていたころだった。

そのころは、まだ私にも友達というものがいなかった。

当初のルームメイトは、リリーではなかったため、とても気まずかったのを覚えている。

私を平民の出と馬鹿にしているのが、見え透いている子だった。

私が、その子のものを盗もうとしていると思っているのか、いつも疑われていて、私は、それに嫌な思いをしていた。

そんなことを思いながら、生活していたら、お互い、疲れてしまったため、寮母に頼み、ルームメイトを変えてもらったのだ。

そして、その次に私のルームメイトになったのが、今のリリーだ。

そんな時だったから、町に出るのは、気晴らしになった。

慣れたとはいえ、完全にアウェイの出。

周りは、身分のある貴族ばかり。

高い学費に、庶民の人間が通えるはずもなく、私は居心地が悪かった。


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