第15話
「アリシア。体には、気を付けてね。あなたのことだから、大丈夫だと思うけど」
「自分で言うのもなんですけど、健康優良児ですものね。私」
「お嬢様。もし、お貴族様からいじめられたりしたら、すぐに逃げてきていいんですよ」
「そうねえ。貴族のお嬢様は、恐ろしいと本にも書いてありますし…。まぁ、貴族だろうと平民だろうと、女は変わりません。面倒ごとに巻き込まれそうなら、すぐに帰ってきなさいな」
「わかりました」
「ほら、あなたも…」
「どっちかでいいから、婚約考えてみない?」
まだあきらめていないらしい。
「ロミオの件が終わりましたらね」
「終わったら、前向きに考えてくれる?」
「前向きに検討してもいいです」
いくら、私でも婚約破棄の手続きが、早く済むとは、思えない。おそらく面倒なこともたくさんあるだろう。
「よっしゃ。言質とった!」
まぁ、父が楽しそうで、なによりだ。
この時の私は、父の仕事の早さを舐めていた。
♡
婚約破棄をする上で、必要なもの。
それは、慰謝料である。
今回は、ロミオ側の不貞+婚約破棄ということで、莫大な慰謝料を請求することが出来る。まぁ、といってもこちらは、金に困っているわけではないので、別にいらないっちゃいらないけど、嫌がらせという意味で、取れるところまで、とる所存である。
元より、金のための婚約。金より愛をとったロミオには、その分、お金をとってやろうじゃないの。
「よーし。エルサイム家を傾けてやろうぜ!」
「えいえいおー」
「おー」
家族全員でこぶしを突き上げ、士気を上げる。
よっしゃ。やってやろうじゃんか。大人を舐めるな。
アリシアが、学校に帰ったあと、早急に私たちは、行動を開始した。
まず、私がしたこと言えば、婚約したときのロミオの浮気現場の証拠を上げていくことである。
アリシアは、こんなこともあろうかと、浮気現場の写真を残していた。
大量の写真に、屈辱で腹の底が煮えくり返る。
「麗しの薔薇。私の心に咲き誇る君へ。君が苦しんでいたことに気づかなくてすまなかった。金キチガイが、どうしてもというから、しかたなく… …キチガイだと?私のアリシアがか?…ぶっころしてやる」
ロミオが間違えて、浮気相手に送ったつもりが、アリシア宛で届いた手紙を読み上げた時には、怒りが頂点に達し、思わず、壁に銃をぶっぱなしてしまった。
「あらあら」
「予定変更だ。社会的な死というものが、どういうものか教えてやる。金なら、いくらでもあるんだ」
「そうですわね…」
妻は、いつも通り、ほほに手を当て笑った。
「愛があれば大丈夫ですもの」
♡
「アリシア!会いたかったわ!」
実家から戻り、寮の自室へ入ろうと、扉をノックする。扉が勢いよく開かれたと思えば、リリーが、抱き着いてきた。
「はいはい。私もですよ」
「アリシアがいなくて、暇だったわ。どう?ご実家で、のんびりできて?」
「それなりに」
「あなたのお父様って、お仕事が早いんですのね。エルサイム家が傾いてきているという噂が、もう流れていますのよ。おかげで、おもしろ…愉快…いえ、大変なことになっておりまして」
「本音が駄々洩れよ」
「お手紙も、ほら。こ~んなに」
「わお」
小さな箱にいっぱいに詰められているのは、手紙だった。
差出人は、もちろんロミオである。
「なんて書いてあって?」
「んー。…私と婚約破棄したら、大量のお金をとられた。どうしてくれる。この金キチガイめ」
「まぁ。そちらは?」
「金の工面に苦労している。お前から、父親のほうに金をよこすように伝えろ」
「まぁまぁ。…こちらには、なんて?」
「僕が悪かった。真実の愛は、近くにあった。青い鳥だ。僕は、ようやく運命の相手に出会った。それが、君だ。…つまり、私ですね」
「ふふっ」
こんな短期間であるにも関わらず、ロミオの家は大変なことになっているらしい。
「エルサイムったら、面白いのですよ。あまりにもあなたが返事をしないから、じれたのでしょうね。この部屋に押し掛けてきたのです」
「えっ!リリー、大丈夫だった?」
「ええ。こう見えて、私鍛えておりますの」
「武芸をたしなんでいるとは、初耳だわ」
「思いっきり叫んでやりましたわ。強姦魔って」
「鍛えているのは、肺活量のほうだったのね」
「女子寮に不法侵入したうえ、私の部屋に押し入ろうとした罪で、エルサイムは、今現在、謹慎部屋にいますわ」
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