第22話

「あら」

「え?」


リリーが、窓の外を眺めている。

視線の先には、レイラ嬢…元婚約者の新しい婚約者さんが、裏庭で言い争っている姿。


「噂の彼女が揉めているようですわね」

「こんな誰が見ているか、分からないところで、やるなんて。案外、ご令嬢たちも血気盛んなのね」

「こんなことを誰もがするわけではありませんわ。現に見てくださいな。どの方も子爵、男爵の方ばかりですもの…」

「指示されてやってるのかも」

「どうでしょうね。でも、見たところ、彼女たち、取り巻きの方々みたいですわ」

「…よく顔を覚えているわね」

「人の顔と名前を覚えるのは、得意なんですの」


人の婚約者をとって、その婚約者が、泥船で。おまけに取り巻きには、いじめられて…。

それでも、レイラの顔は、思ったより暗くない。

意外だわ。少し、落ち込むかと思ったのに。

窓を開けると、すぐに会話が聞こえてくる。


「うるっさいですわよ!私は、確かに自分の最善を選んだまで!ロミオ様は、確かにお金持ちではありませんし、慰謝料すら、ろくに払えないような貧乏貴族ですけど、私には、貴族としての誇りがあります。品位があります!彼と一緒にまた家を建て直してみせますわっ!」

「あらあら。案外、お強いかた。さすがは、人の婚約者を奪った女なだけありますわね」

「そうですわね~。お嬢様方~!」

「な、なんですのっ!?」

「授業が始まってしまいますわよ~。それにこんな窓を開ければ、誰でも聞けるところで、人を責めるのは、およしなさいな!私みたいな無粋ものが、邪魔しますわよ」


おお、怖い。

睨みつけられてしまった。


「あら。さすがは、平民。婚約者をとられても平然としていられるなんて、さすがは恥知らず。私だったら、耐えられません」

「それはどうもありがとうございます。私も人の弱みに付け込んで、責めるような貴族にはなりたくないと思っておりましたので、よかったですわ。……あら、予冷がなってしまいました。授業に遅刻するようなレディにはなりたくありませんので、これにて失礼します」

「あらあら。アリシアよかったんですの?」

「レイラ嬢が少なくとも、借金につぶれて、恨み妬みを抱いているような感じじゃなくてよかったわ。ロミオの手紙だと、精神的に参っているって、書いてあったけど、元気そうね」

「彼女でしたら、あの方のサポートをきちんとしてくれそうですわね」

「むしろ、尻にひかれそうだわ」

「それくらい強くなければ、女主人なんて、務まりませんもの。良かったですわね。良い婚約者様じゃありませんか」

「ほんと、お似合いよね」

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