第28話

そして、手紙騒動はおしまいに思われたある日、私はまたしてもあの見覚えのある白い手紙を目にすることになる。


「あ。さっきの教室にノートを忘れてきたみたい」


教科書と一緒に持ったつもりだったのだが、ノートだけを残してしまったらしい。


「あら。では、私ここで待ってますわね」

「うん。すぐとってくるから」

「あんまり慌てますと、転びますわよ」


リリーの言葉に手を振りながら、私は教室へと走る。

そして、もちろんノートは机に置いてあった。

手紙が中に挟み込まれた状態で。


「あれ」


差出人は書いていない。

あいからず、真っ白な封筒はシンプルだ。

封を開け、手紙を確認してみると「いつも見ている」と書かれてあった。

私は、思わず周囲を確かめる。

この教室のどこかに潜んでいるような気がしたからだ。

さっきの授業で一緒だったのだろうか。

ということは、同学年…。

もしかして、私のノートは忘れたのではなくて、抜かれたのだろうか。

この手紙を見せるために?

自分がそばにいることをアピールするために……?


「おい」

「ひっ」


声をかけられて、反射的に後ろを振り返る。

いつの間にいたのだろうか。

ルドルフが、仁王立ちしている。

ま、まさかルドルフがこの手紙を?


「な、なに…」

「どうした。こんな教室に一人で。いつもの友達と一緒じゃないのか」


近づいてくるルドルフを警戒して、近づいてくる分、距離をとった。

そんな私の行動が、不審に思えたらしい。

立ち止まり、それ以上、近づいてくることはなくなったので、私は少しだけほっとした。


「もうすぐ予鈴が鳴る。次の授業の教室まで、ここは少し遠い」

「そんなことあなたに関係ある?」

「…君と僕は同じ授業をとっているから。…関係ないわけでもない」

「……」


さっきの授業は、ルドルフとは違う授業だったから、彼がこのノートを抜くのは不可能だ。

ということは、ルドルフではない?


「どうしたんだ。いったい。まるで、野生の猫だ」

「手紙が」

「手紙?」

「この手紙が、最近私に届くの」


そう言って、ルドルフに手紙の件を話した。


「どうして、別の人間に相談しなかったんだ。これは、あきらかにストーカーだろう。先生に伝えたほうが…いや。どうせ取り合ってくれないか…」

「ストーカー?」


私にストーカー?

そんなことある?


「で、でも、私にストーカーだなんて…それにあまりことを大きくしたくないの」

「だが、君は現に怯えているじゃないか。この手紙を見て、怖くなったんだろう?」

「それは…そうだけど」

「手紙をプライベートな部屋に置いていくなんて気持ちが悪い。そのハウスキーパーは、なにをしていたんだ。もっとほかに情報はないのか」

「もうとっくに減給処分されて…」

「減給処分?なまぬるい。クビでいいじゃないか。僕が代わりに言ってくる」

「そ、そんなルドルフが、行くまでのことはないんじゃないの?」

「君が平民だからとなめられているんだ。僕や僕くらいの爵位をもつ家の子息であれば、こんなことが起きた時点で、首にされてもおかしくはない。責任を問われて、賠償金問題になるかもな」

「そんな大げさな」

「おおげなわけあるか。高い身分の人間におかしなものを送り付けてくる人間は、どこにでもいる」

「……」

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