第3話

リリーは、さすがにご令嬢としての躾が行き届いているのか、婚約者と浮気女のような下品な姿で、笑いこけることはなかったけれど、息を押し殺し過ぎて、窒息しかけていた。

もはや、一周回っておバカである。


「大丈夫?落ち着いた?」

「死ぬかと思ったわ」

「ええ。あやうく死んでしまうところだったわね」


顔は、まだ青白い。


「私は、全然笑いごとではないというのに」

「だって…あなた…真剣な表情で言うんだもの」

「真剣なことだもの」

「その話、本当に信じてるの?」

「だって…」

「あの二人ですよ?」

「分からないじゃない…」

「安心なさって。あなたのお父様は、とても優秀なお方。事業に失敗しただなんてありえないですわ」

「どうしてそんなことが分かるのよ」

「だって、その噂を流した人を知っていますもの」

「は?」

「それに私のお父様が、あなたのお父様の事業に出資していましたし、大丈夫でしょう」

「色々と情報量が多い。噂を流した人を知っているの?それは、誰?」


わざわざ、私の父が事業に失敗しただなんて、噂を流して得する人なんているのだろうか。


「さぁ。どなたかしら」

「知っているんでしょ。でも、どうしてそんな噂を流したの?」

「婚約を破棄させたかったのでは?」

「は?」

「あら。いけない。これ以上、口を滑らせると今度は、私が痛い目を見てしまいます。これ以上は言えないわ」

「婚約を破棄させたかった?なんで?」

「なんででしょうね~。あなたと婚約をしたかったのではいのでしょうか?」

「私と?誰が?」

「さぁ。どなたでしょう」

「しらじらしい…」


まぁ、別に誰でもいい。

この噂が流れることによって、私の何かが崩れるというわけではない。

それでも一応、実家が心配なので、外泊届は取り消さないでおこう。

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