第10話

君が、入学してきた頃、ずっと貴族の間で話題になっていたんだ。

身分が違うにも関わらず、偉そうな態度をとる女の子がいるって。

・・・そうだよね。君は、別に偉そうな態度をとってる自覚はなかったし、普通にしていたつもりだと思う。

でも、貴族にとって、身分というものは、絶対で。誰が、どの家の子どもであるか、というのは、とても重要なことだったんだ。


「身分。身分。って、ここは、絵本の世界かしら。そこまで、身分が大事なら、きっと法律で定められているでしょうね。でも、定められていないということは、別にたいして大事なことじゃないのよ、きっと」


言われた方の女の子たちの顔は、とても怖かったのを覚えている。

君が、そのあと、水をかけられて、びしょ濡れにされても、毅然とした態度をとっている姿をみて、僕は、これこそが身分に貴賤はないということなのだと分からされた。どれだけひどい言葉や態度やいじめを受けても、強くたっている姿に僕は、心底感動したんだ。

僕は、ずっと守られてきた。

僕の家は、この国でも有数の高位貴族だったから、今まで回りが守ってくれた。

でも、それだけじゃダメなんだ。って、君の姿を見て、思ったんだ。

君は、僕とすれ違い様に交わした視線の強さを覚えている。

僕も、君のように強くありたい。

望むなら、君の近くで、君の強い輝きを見ていたい、そう思うんだ・・・。


「・・・なるほど」


つまり、こいつはずっと私を影で見ていたということか。

そして、水をかけられている姿を見てもなお、私を助けるということをしないで、ただ傍観者の立場でいて、なおかつ、これからもその姿を見ていたいということなのだろうか・・・お断りである。

しかも、すれ違い様に交わした強い視線って、たぶん「なに見てんだ、こいつ」的な意味で、睨み付けていただけだと思う。それなのに、そのことに気づいていないだなんて、どれだけ鈍いんだ。


可愛い顔して、とんだ男である。

別に私は、特別強い人間ではないし、強がっている部分もある。

誰かから、いじめられたら、庇ってほしいし、守られたいという気持ちがないわけじゃない。

でも、現実で守ってくれる人も庇ってくれる人もいなかったから、こうして頑張っているわけで、この男は、私を守る気がないように見えるし、将来、支えてくれるようにも見えない。

憧れ。

たぶん、それが一番近い感情なのではないだろうか。

私よりも強い女性が現れたら、きっとそっちになびくだろうし、面倒ごとはごめんである。

物珍しさもあるのだろう。

それをアーサーに伝えるつもりはない。


「どうかな?」

「正式に婚約破棄したというわけではありませんし、すぐに別の男と婚約を結んだなんて、知られたら、良い目では見られないでしょう。ですから、お断りさせていただきます」

「でも、君の元婚約者は、とっくに新しい女性と婚約を結んだと聞いたけど?」

「よそはよそ。うちはうち、です」

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