第9話 元クラスメイト

「いきなり何言い出すんですか。3人のOLに会うなんて」

「ああ、水戸さんからメール届いたんだよ」

「どんな内容だったんです?」

「えっとね。3人の友人と俺たちが話し合う機会を作ってくれたらしくてね。9時と13時と15時にそれぞれ面談だって」

「分かりましたけど、あなたそんなに早く起きれるんですか? そこだけが心配です」

「大丈夫だ! この頃結構早く起きれてるし!」

「本当ですかね?」絶対お前起きないだろ、という目付きで俺のことを睨んできたがとりあえず無視をした。



 8月2日、夏休みという状況も慣れてきて早起きする習慣が身に付き始めた、と自分はどうやら錯覚していたらしい。


 目が覚めたのは8時半、菫に叩き起されてようやく起きることが出来た。約束の時間まで30分を切っていたので服装などを気にする余裕はなかったが、あまりにも平然とした服装だったのを菫に指摘され更に時間に余裕がなくなった。


 身支度を済ませると外に出て自転車に乗り込みメールに載っていた目的地へ急いで向かった。目的地はというと、高校の近くにある小さめの公園だった。向かっている最中、信号無視しそうになるとその都度菫に叱られた。


 目的地に着いたのは家を出てから25分が経った頃だった。スマホの時計を見るともう9時10分を指していた。結局遅刻したのかよ。


 目的地の公園に着くと、端の方にあるベンチに眼鏡を付けていてショートカットの落ち着いた雰囲気の女性が座っていた。俺が来たのに気づくと微笑みながら軽く手を振ってきた。近づくと隣に座るように右手を出し、指示を出してくる。やぶさかではなかったが彼女の隣に座ることにした。


「ええっと、榛名ちゃんが言ってたのはあなたでいいのかしら?」オドオドしながら彼女は俺に話しかけてくる。

「そ、そうです。初めまして初風深夏といいます」

「私の名前は瀬上蘭子せがみらんこ。知っての通り菫さんの同級生で同じクラスメイトだった者です。何から話しましょう?」

「ならまず、あなたから見て菫という人物はどうでしたか?」

「そうですね」彼女は少し困ったような顔をする。「私自身あまりあの人とは関わっていなかったから詳しいことはあんまり知らないの」

「そ、そうですか」やはりそう上手くはいかないか。

「ああ、でも少しくらいは知ってますよ」俺が少し落ち込んでいるのに気づいてか慌てて前言を撤回した。「あまり社交的じゃなかったですね。人とは関わってなかったイメージがあります」

「その他には?」

「その他ですか、確か頭が良かった記憶がありますね。あの人が受けた2つのテストの内、どちらとも学年首位になっていましたね」

「え!?」その話を聞き、予想ではあるが瀬上さんはきっと霊感がない。それなのにも関わらず菫の方を見たり瀬上さんの方を見たりを繰り返してしまった。そんなに頭良かったのか、俺とは大違いだなアンタは。


「後は何かありますか?」

「ごめんなさい。本当にこれくらいしか知らないの。力になれなくてすみません」

「いえいえ!ありがとうございます」俺はそう言って頭を深く下げる。「あの、図々しいのは分かっているんですけど1つお願いしてもいいですか?」

「なんでしょうか?」

「瀬上さんの連絡が取れる中で当時同じクラスメイトだった人っていますか?」

「2人くらいは居るけど」

「それなら話し合う機会を作ってくれませんか?」

瀬上さんは少し悩んだ末に「別に良いわよ。それなら連絡先交換しないとね」

「は、はい」


 連絡先を交換して俺と瀬上さんは別れた。

 話が終わった頃には外の暑さがどんどん上がってきていた。時間の余裕もあったのでひとまずコンビニ寄り少し遅めの朝食とペットボトル飲料を購入した。


 2人目の元クラスメイトに会いに向かっている最中、瀬上さんから話されたことの感想を菫に聞くことにした。


「どう思った瀬上さんから色々言われて」

「どうと言われましても」

「それなら何か記憶に影響はなかったか?」

「特にありませんね。逆に聞きますけどあなたはどう思ったんですか?」

おっと、やはりそう来たか。

「社交的じゃなかったっていうのを聞いた時は少し納得したけど今と比べるとそうでもないなって違和感もあったな」

「おや? 今の私はそんなに社交的に見えますか?」

「少なくとも陰気臭くはないかな」

「そうですか」そう言って悪戯っぽく笑った。


 13時になり2人目のクラスメイトに出会うことが出来た。しかしというか瀬上さんから菫が社交的じゃなかったという話を聞いて薄々気づいてはいたことだが、やはりあまり重要な情報は手に入らなかった。


 お礼と知り合いのクラスメイトに話し合う機会を作って欲しいと頼み込み、待って欲しいと言われ連絡先を交換してその人とは別れた。


 15時にもクラスメイトと出会ったが正直なところそこまで期待してはいなかった。

初めの方は聞いたことある情報しかなかったが、話が始まってから15分が経とうとした頃少し気になることを言い放った。


「そう言えば、あの子。春が終わってどんどん暑くなるっていうのにずっとワイシャツの袖を伸ばしたままにしていたわね」

「それはどうしてですか?」

「さあ? そこまでは知らないわ。別に寒がりって訳でもなかったのよ。体育の時も長袖着てるのなのに汗かいてるのよ。意味わからなくない?」

「ま、まあ、そうですね」曖昧な返事をする。

菫の方を盗み見すると、その発言に苛立ちを隠せないでいた。そこまで言わなくても良いでしょ、と小声で愚痴も零していた。生前でもこの2人は仲が悪かったのだろうか?いや、菫はまず関わってなかったか。


 話が終わりこの人にも同様のことを頼み込んで別れた。


 それにしてもどうして菫は夏場になっても何故長袖を着続けていたのだろう? 本人に聞いたとしても覚えてませんし思い出せませんね、と言い出されてしまった。話を深めたら謎が増えるというのはとても面倒なことだな。


 家に帰り自室に戻って携帯を見てみると2件のメールが届いていた。送り主は瀬上さんと2番目に会ったクラスメイトだった。内容は俺が頼み込んだことへの返答だった。その内容は確かに嬉しいものだったが、


「うへぇ、これはなかなかだなあ」

「どうしたんですか?」

「今日またクラスメイトに会えないか頼んだんだよ? んで、その返答なんだけど明日の午前8時と10時、そんで午後14時と16時に会うことになった」

「そんな時間に起きれますか?」

無理に決まってんだろ、と言いたかったが「だ、大丈夫だろ! なんとかなるさ、きっと」見栄を張ってしまった。

「分かりました。き、期待していますよ」そう言った菫だったが俺には失望落胆している顔に見えた。


 それからは本当に怒涛の毎日だった。慣れない早起きを何度も繰り返し、容赦ない酷熱が襲ってくる野外を自転車で駆け巡っては菫の元クラスメイトに会いに行くという日々が1週間続いた。


 1人会っては他のクラスメイトに連絡を取って貰うというのを繰り返した。夏休みとはいっても精神的にも身体的にはかなりしんどかった。


 その1週間で菫の記憶に関する情報を沢山手に入れることが出来た、訳ではなかった。正直なことを言うと初日とほとんど情報量は変わらなかった。


 強いて言うなら菫の容姿についての情報を得ることが出来た。学校で見た資料や写真だけではどれが菫かは分からなかったので個人的に有難い情報だった。

 提供元の多くは男性の元クラスメイトで、特徴はショートカットで身長は163センチ程度で顔は美形、そして胸がそこそこあると言ったところだった。


 幽霊の姿である今と少し似た所もそれなりにあるなとそう言った話を聞いて思った。


 そして、その1週間の最終日にも今までと同様に元クラスメイトと会う機会を作ってくれと頼んだ。そして気づけばその時に会った、確か名前は赤波紗奈香せきなみさなか。その人含めて残りのクラスメイトが3人になっていた。このままじゃマズイ!


「どうしようかな」俺は頭を抱え込む。

「どうしましたか?」

「このままじゃお前のことを成仏させれないかもな」

「嘘はついちゃいけませんよ?」

「嘘じゃねえよ! 成仏させる為の鍵を何も掴めないまま1週間という貴重な時間が無くなったんだぞ?」

「確かにもう気づけば8月9日ですね。次の面会は4日後の8月13日ですね」

「そんなことは知ってるわ! そんでその6日後にあることもな!」

「そんなにイライラしないでくださいよ。大丈夫ですよ。きっと手がかりは手に入りますから」

「後2人のクラスメイトでダメなら腹括っといてくれよ」

「は、はい」

不安にさせてしまったのなら申し訳ないと思ったが俺には何も出来ないんだ。すまない。


「あ、あの」

「何?」

「明日は何もないオフの日ですよね?」

「そうだな」どうした?どうした?

「海に行きましょう!」

「?」彼女は一体何を言い出したのだろう?「どうしたんだよ……急に」

「海を見るとポジティブな気持ちになることが出来るんですよ」

「え……ああ。そうなんだ」

どうやら菫から見たら今の俺は落ち込んでいる様に見えたらしい。カッコ悪いところ見られちゃったな。今度から気をつけよう。

「んじゃ、海に行くか。人多いと思うけど大丈夫か?」

「そこは問題ないので大丈夫です!」

「そうか」何を根拠に言っているのだろうか?気にはなったが深く考えなくていいか、と楽観的に考えた。「一応言っておくけど泳がないからな」

「え?」

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