第23話 実質デート
8月25日、あまりの楽しみすぎてよく眠れず、深夜の間は何度か目を覚ましては寝るという行動を何度か繰り返していた。遠足が楽しみで眠れない幼児となんら変わりないな。
起きてすぐに、横で寝ている菫にちょっかいを出して起こそうとすると意外とすぐに彼女は目を覚ましてしまい、ちょっかいを出しているのがバレ、少し怒られた。
それから出かける準備を終えると、自転車に飛び乗りそのまま繁華街へ向かった。
朝ということや夏休み終盤で皆宿題の処理に追われているのか学生の姿が少なく見えた気がした。
「まずはどこに行きたい?」
「そうですね。ではまず朝食から」
「それもそうか。適当な飲食店にでも行こうか」
「了解!」
しかしながら朝ということもあり、空いているファミレスや喫茶店はなかなか見つからない。なので、仕方なくコンビニで軽食を買ってたいらげた。多少安く済んだと思えば儲けものだろうか。
朝食を食べ終わると店が開く時刻が近づいてきたのでもう1度繁華街の方へ自転車を進めた。すると、さっきとは打って変わって人が大勢いて多くの店が運営を始めていた。
「どこに行きたいんだ?」
「ショッピングモールとか近くにありませんか?」
「あるよ。そこそこ大きいのがね。もう時間的に開いてると思う」
「なら、そこに行きたいです」
「了解了解」
スマホで場所を確認してすぐさまショッピングモールへ向かった。着いてすぐに驚いたのは車の量だった。
開店してまだ10分も経っていないのに広大な駐車場はもう家族ずれの車で満たされていた。自転車も負けておらず駐輪場には沢山の自転車やバイクが停められていた。
「す、凄い人の数だな。こんな所に来て大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ! でも、少し怖いので手握ってください」
「良いよ」
菫の手を優しく握るとほぼ10年ぶりと言っていいショッピングモールの中へと足を進めた。屋内へ入るとすぐに多くの店が視界に入ってきた。服屋・本屋・宝石屋・化粧屋など様々なお店が乱立していた。
菫は1つの店を見るなり俺の手を引っ張るように走り始める。一体どうしたと言うのだろう?
「はあはあ……ここに、こうゆうお店に来たかったんです」
「ここって、時計屋じゃんか」
菫って時計を身付ける趣味でもあったのかな。
「どうしてこの店に?」
「欲しいものがあるんです。探すの手伝ってくれませんか?」
「いいよ分かった。特徴は?」
「小さいリングみたいなのがいくつも連なっていて中央には少し大きめのアナログ時計が付いています」
「ほうほう。高そうだな」見つかっても買えないだろきっと。
それからしばらくの間、高い時計の中から1つの品を見つけ出すという作業が続いた。しかし、菫が探していた品は見つからなかった。
「残念だったな。何が欲しいの?」
「昔父から貰ったネックレスがあるんじゃないかと思って来たんですけどありませんでした」
「仕方ないよ。他にも店はあるし探して見ようぜ」
「分かりました。ありがとうございます」
ショッピングモールの中ってのは沢山店やら人やらがいるのでただ歩いているだけでも案外楽しかった。そして、歩いて時計付きネックレスを探すこと約4時間、ようやくお目当てのネックレスが見つかった。
「これです! これです!」小さい子供のようにはしゃぐ菫。
「まさかほんとにあるとは」10年以上前の代物だから見つからないと思ったが。
「では、これをお買いあ……げ、こんなに高いんですか」
「プレミアでも付いてるんだろ」
「こ、これでは買えませんね。諦めます」
「なんで?」
「8万円ですよ8万円! 高校生が軽く出せる金額じゃありませんって!」
深呼吸をするなり俺は財布の中身を見るなりもう一度深呼吸をして菫に財布を見せつける。
「ここの財布の中にありますのは中学からのお年玉と先月までのお小遣いが詰まっております。その金額およそ12万9800円です」
「え? そ、それって」
「このネックレスを買うことができるってこと。どうする買う?」
「か、買います! 是非買ってください!」
「了解」
俺がそう言うと菫は喜びながら飛びついてきた。有り金のほとんどが飛ぶが彼女が喜ぶのなら俺も本望だ。
後々スマホで調べたことだが、このネックレスは15年前くらいまでは5000円程度の価値しかなかったが少数生産で終わったという事実が知られると価値が一気に跳ね上がり、今の価値に落ち着いたという。
購入して店を出て早速菫が首にネックレスを通してみると制服姿のままでも似合っているのが分かった。やはり本人のスペックが高いからだろうか?
「似合ってますか?」恥ずかしそうに頬を紅く染めながら菫は俺に聞いてくる。
「似合ってるよ。もうこりゃ拍手喝采だね」と言って手を叩くと菫が少し頬を膨らませ俺のことをポコポコと叩いてくる。
「怒るなよ。似合ってるってのは本心だから」
「だったらちゃんとふざけないで言ってください」
「分かった分かった。似合ってるよ」
「えへへ。ありがとう」
急な菫のタメ口に驚きその勢いのまま頭を優しく撫でてしまった。菫は嬉しかったのか撫でていると身体をゆっくり左右に揺らした。今日の朝のちょっかいといい、今の撫でる行為といい、多少なら菫に対してのボディタッチが許されているような気がするが……気のせいか?
昼になりお腹が空いたのでひとまずフードコートへ行くことにした。正午という時間帯だからかどの場所よりも1番人が多く居て席のほとんどが埋まっていた。丁度良く2人用の席が空いていたので誰かに取られる前にすぐにそこへ座った。
バッグを置き「それ見ててすぐに戻ってくるから」と菫に伝えて自分が食べたいものを探しにブラブラと歩き回り最終的に天丼を選んだ。
席に戻るとバッグを抱き締めて待っていた。 席に座り天丼を食べている最中何度も菫が天ぷらを要求してきたので2本あったエビ天の内1本を菫に食べさせた。美味しかったのかもう1本あるエビ天にも手を伸ばして来たが触れることはなかった。
天丼を食べ終わった後は適当にショッピングモール内を歩き回った。同級生や知人に会うんじゃないかと今更ながら懸念したがそれは無駄打ちに終わった。
ショッピングモールを歩き回るのに飽きると「次はどこに行きたい?」と聞くと「海ですかね」と応えたのでとりあえず海へ向かった。
海に着くと8月下旬なのと夕方ということもあり砂浜に人の姿はほとんどなかった。だからなのか、砂浜に降りるなり菫は足を濡らしながら砂浜を走り回った。靴を濡らさないように俺も菫の後を追いかけた。なんであんなに走れるんだよ!
「はあはあ……ちょっと待ってくれ!」
「どうしたんですか?」
「早すぎ! そんなに運動できるなんて初めて知ったよ」
「幽霊は軽いんです。その気になればどんな場所へも走って行けますよ! 深夏君こそこの程度でもう限界なんてヘタレですね」
「ヘタレ言うな。1日中歩き回って自転車だって漕ぎまくって疲れたんだよ」
「言い訳なんてダッサイよ」
「うるへぇ。というかなんで海に?」
「そろそろ夕方なので天気も良いので夕日が綺麗に見えると思いまして」
「じゃあ座って夕日を見よう。休みたい」
「わ、分かりました」
その後は2人で夕日を見て帰路に着いた。
帰っている最中、「明日は何したい?」と聞くと「またお出かけしに行きたいです」と応えたのでその翌日も菫と一緒に出かけることにした。
その日は映画を見に行ったSF映画にラブコメ映画にアニメ映画、菫が漫画好きだからか案外なんのジャンルでも楽しく鑑賞していた。
その日の翌日もその次の日も菫が行きたいと言う場所に言っては自転車に乗りその場所へ向かった。
そして、菫と出かけること3日目、28日の帰り道にあるポスターを見つけた。そのポスターの内容は。
「夏祭り……この近くであるみたいですね。明日あるらしいですよ。その次の日は海で花火大会があるみたいですね」
「夏祭りか。どうせ明日の夜なんてやることもないだろうし一緒に回る?」
「はい! 回りましょう!」
という訳で明日の予定は決まった。
菫と夏祭りを回るという青春真っ只中の高校生のようなことをしに行くことになった。この頃のデート擬きといい自分がこんなことするなんて1ヶ月前までは予想も付かなかったな。
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