出会いと別れの意味を持つ日

饅頭

プロローグ

 幽霊などのオカルトの話を聞かれるといつもある日の女の子の発言が脳裏によぎる。


 あれは小学6年生の頃の冬だった気がする。

 意外に多くの雪が降ったからか、その年の出来事を細かいところまで鮮明に覚えていた。まあ、人間関係が改善されて精神的に楽になり始めていたというのも結構関係していると思うが。


 確かその日は前日に冬だというのにも関わらずゴールデンタイムに心霊番組が放送された。内容は学校にまつわる心霊現象の特集で主に七不思議とかそんな感じのやつだった気がする。


 それで、その次の日の学校の話題はその心霊番組でもちきりだった。内容が内容ということもあり、小学生なら食いつくのには持ってこいだったのだろう。


 男子の集団は音楽室に向かい誰もいないはずの音楽室から鳴り響くピアノの音を聴きに行ったり、美術室に飾ってあるモナリザやモーツァルトの肖像画を見に行ったりしていた。


 ところ変わって女子の集団はというと、休み時間になる度にトイレに行って花子さんを呼び出す方法を何回も何回も試していた。


 その光景を見て、当時の俺は馬鹿馬鹿しいと思った。1年生や2年生などの低学年の生徒ならまだしも高学年の、しかも次の春には中学生になるという人達がこんな馬鹿なことで楽しく騒げるその神経を俺は理解することができなかった。


 つまらなそうに俺は雪が散々と降っている外の景色を窓越しに見ていると1人の少女が近づいてくるのが足音で分かった。


「こんな所でなーにしてるのさ?」

「特別何もしてないよ」


 話しかけてきた女子の名前は白川琴音しらかわことね

 同年の秋頃に親の仕事の都合で引越して来た子で、俺なんかよりも先にすぐにクラスに馴染んで、冬になる頃にはもうクラスメイトのほとんどの人と話すことが出来るくらいのコミュ力モンスターだ。


 そんな親切な彼女だからか俺がこうやって外を眺めていると近づいて来てよく話かけてくるのだ。


「まあ、どうせまたつまらなそうに外を眺めているだけか。深夏みなつはあの会話の輪には入らないの?」

「俺は心霊現象等のオカルト的な話が嫌いだからな」

「ふーん」ニヤリとした表情を琴音は浮かべる。「それなら、そんな深夏君はこんな噂聞いたことある?」

「何? どんな噂?」少し気になったので話を掘り下げることにした。

「この世にいると思われる幽霊と出会い契約を結びその幽霊の未練を晴らし成仏させるっていう噂」

「ふーん」

 こっちから聞いたにも関わらず無関心気味な返事をする。


「というか、どうして幽霊なんかと契約しなきゃなんだ?」

「どうしてだろうね。これは私の推察だけど多分契約を迫ってくる幽霊は誰かに助けを求めてるんじゃないの?」

「幸せな死に方をした奴もそうなのかな」

「それはどうだろ。私には分かりかねるかな」

「そっか」

 俺は素っ気ない返事をする。


「どうしてそんなこと聞いてきたの?」

「気になっただけだよ」

「ふーん」

 何か言いたげな顔を琴音は浮かべたが俺は特に言及はしなかった。


「こんな噂を聞いてもまだ嫌い?」

「こんな噂って、そんな信憑性もないこと言われてすぐに顔色変えて大好きです、なんてなる訳ないだろ」

 バカにするように少しニヤケにながら俺は応える。


「それとオカルト的なのって全部作り物って感じがして嫌なんだよ。どうせCGとか舞台装置を使って金を荒稼ぎしているだけなんだよ。そうゆう理由で俺はオカルトが嫌いなの」

「あっそ」

 彼女は不満げな声を出す。


「でもさ、それが必ず真実ということでもないんじゃない? 真っ向から深夏の考えを批判する訳じゃないけどさ。完璧に証明してもないことをただ批判するのはよくないよ?」

「なんだよ。幽霊がいるってのを無理矢理信じろっていうのか」

「別にそうゆう訳じゃないけど。逆にあなたはどうしてそんなに幽霊や心霊現象を否定するの?」

「琴音が言った通り証明とかされてないのと実際に見たって話を聞いたことがないからだよ。ネットに山ほどある動画や書き込みなんて幾らでも嘘のモノを作れるからね」

「はあ、アンタって人は本当につまらないわね。子供の内はこうゆうあやふやで信憑性のないようなこと信じて楽しめばいいのよ」

「大人ぶるなよ」呆れながら笑って俺は言う。「逆に聞くが琴音はなんでオカルトとかをそんなに信じるんだ?」

 俺がそう言うと、彼女は悪戯っぽく笑う。


「それを深夏が聞いちゃうとあなたの考えが真っ向から否定されて幽霊の存在を信じなきゃいけなくなるけど、それでもいいの?」

「は?」

 俺はその一言を聞いて思考が停止する。

 ややあって俺の脳は再び動く。


「それってお前は本物の幽霊を見たってことなのか?」

「さあ? どうでしょう?」


 そう言って琴音は俺の元から去って行った。

 彼女は本物の幽霊に会ったのか、会ってないのか。俺がその答えを琴音に聞く前に彼女はどこかへ再び引っ越してしまった。なので、今でもこのことを思い出すと俺は悶々としてしまう。


 そんなオカルト等の心霊を絶対に信じないと言い張っていた俺だったが、高校1年生の夏にその考えは崩れ去る。だって、本物の幽霊に出会ってしまうのだから。

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