第2話 居候幽霊
帰る道中、彼女、
俺が相手と話すのが苦手というのもあるが、これから8月の終わりまでプライベートが無くなるのではないかという不安で頭がいっぱいだった。
思春期以上の男性なら分かると思うが、同年代くらいの異性が同じ空間にいると全くといっていいほどリラックス出来ないのだ。何か話をしてそれを続けなきゃとか、少しでも相手にカッコ良く見せなきゃなど、色々と考えずっと気を張り続けてしまう、そんな気がするのだ。
自転車を漕いでいると、頭の中に一つの疑問が湧いて出てきた。なので、ブレーキを押し自転車を止める。「1つ良いか?」と彼女に話しかけると、「なんでしょう?」と聞き返してきた。
「アンタの存在って俺以外の人間が見ることって出来るのか?」
その質問に、彼女は「そうですね」と少し悩んだような声を出した。しばらくしてから彼女は再び話しを始めた。
「私のことを見ることが出来る人は恐らく2種類に分けられます」
「そうなのか。どんな人だ?」
「まず1つ目は、霊感がとても強い人です。これは本当に霊感が強くなければ見ることは出来ないと思います。2つ目は私と血縁関係がある人です。まあ、これは言わずもがなで、私と血が繋がってる人ですね」
「それじゃあ、俺の親がアンタを見れるかどうかはほとんど運次第ってことか。しかも見える確率は相当低いと」
「そうなりますね。あなた的には私の存在は他の人、特に身内には見られてほしくはないでしょ?」
「まぁな」と苦笑いしながら返事をした。
そして、会話が終わる頃には、もう家に着いていた。
空いている所に自転車を停め鍵を抜く。
玄関の前に立ち、ドアの鍵を解いて開けた。ドアの先には誰も居なく、明かりすら付いていなかった。
「ただいまー」と低い声が玄関に響く。
靴を脱いで玄関を上がると、母親がようやく俺の存在に気づいたらしく「おかえりなさい!」と大きな声で返事を返してきた。「お風呂沸いてるから先に入っちゃって!」と追加で叫んできた。声のトーンを聞く限り朝のことはもう怒っていないようだった。
俺はてきとうに母親に返事を行い、階段を上って自室に向かった。
部屋に入ると、俺はとりあえずリュックを腰から下ろす。
菫には「ここからは出ずにじっとしていてくれ」と言うと「わかりました」と頷いた。
その後は着替えを持ち風呂場へ向かい、軽くシャワーを済ませる。寝間着に着替えると、俺はリビングに行き、素早く夕食を済ませる。親はその俺の様子を見ると「学校で何かあったの?」と心配してきたが、「別に何も無かったよ」と受け応える。
足早に自室に戻ると、真っ暗な部屋のど真ん中に浮遊している幽霊がそこにいた。電気のスイッチを入れると眩しかったのか身体を縮ませ、手で瞼を押さえ込んでいた。
「す、すまん。眩しかったか?」と俺は申し訳なさそうにいう。
「はい。結構眩しかったです」
「ごめんな。そんな電灯の近くまで浮遊しなくても良かったのに」
「久しぶりに人の部屋に入って何があるのか気になってしまっただけです」
「そっか」
会話が一段落着くと俺は椅子に座り彼女の方向を向く。菫もベッドに座り込み俺の頭上ら辺をじっと見つめる。どうやら俺が話しかけてくるのを待っているようだった。俺が一向に口を開かないので菫の方から話を切り出した。
「まず、何から話しましょうか?」
「なら、再確認なんだが、アンタって本当に生前の記憶はないんだよな?」
「はい。綺麗さっぱり無くなってますよ。死に方と名前しか覚えていないです」
「趣味とか好きな食べ物とか家族とか、細かいことでもいいからなんか覚えてないのか?」
「何もないですよ。苗字すら覚えてないんですから」
「それもそうか」ややあって俺からも彼女に質問をする。「なら、別のことを聞いてもいいか?」
「なんでしょう?」
「アンタって、成仏させるか8月31日を迎えるまで俺について来てこの家に居候するんだよな?」
「そうですよ。1人寂しくいるのも嫌なので」
「でも大勢の人がいる所に行くのも苦手なんだろ?」
「そうなんですよね。理由は分かりませんが人が沢山いる所に行くと身体に拒否反応が起こるんですよね」
「それだと明日、普通に丸々1日学校あるけど大丈夫か?」
俺がそう言うと彼女は少しの間床をじっと見つめていた。
5分経つか経たないかの狭間くらいに意識が戻ったのかハッと目を見らき我に返る。「確認の為もう1度言ってもらって良いですか?」とオドオドしながら俺に聞いてくる。なので、ハキハキとした声で「明日学校」という。
すると、彼女はベッドから立ち上がり大袈裟に身体を動かし始める。どうやら焦っているらしい。恐らく、学校の日程までは頭が回っていなかったのだろう。
どうにか状況を飲み込んだのか、身体動きを止めて「とりあえず付いて行きます」とだけいった。声のトーンが明らかに低くなっていた。俺は困惑した声で「分かった」と返事をした。
時計を見るともう11時を指しており、明日余裕を持って学校に登校する為には、もう寝なければならない時間になっていた。
なのでベッドに横たわり「明日は7時半までには起きなきゃな」と独り言を呟き、部屋の照明を消した。
そして、俺は彼女に向かって「おやすみ」と言うと、「おやすみなさい」と不意をつかれたのか不思議がってるような声で返してきた。まさか俺がおやすみと言うことを予想していなかったようだった。
女子のおやすみなさい、という珍しいものを聞いたので、満足して寝れると思い瞼を閉じたが彼女が俺の方を見てるんじゃないかとそればかりが気になって全く眠ることが出来なかった。
そして、俺が眠りに落ちたのはおやすみ、と言ってから1時間くらい経った頃だった。
明日、余裕を持って起きれるかの不安が足元から込み上げてくるのがわかった。
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