第4話 超至近距離
疾風に発見されてからなんとも言えない沈黙続いて微妙な空気が流れた。その沈黙と空気を破ったのは俺だった。
「えっと……これは」
沈黙を破ったは良いが見られたくないところを見られ何から話していいのか分からなかった。
「一先ず落ち着いてくれ、俺も状況を整理出来てないんだ」頭を抱えながら疾風はそう言ってきた。まあ、抱えたくもなるわな。
「そ、それもそうだな」
しばらくの間、また沈黙が続いた。
すると、沈黙の間、彼女が俺の小指を無言で握ってきた。握った感覚に慣れてきた頃に疾風が話し始める。
「さてと、お前はなんで空気に向かって話しかけてるんだ?」
「それを説明するには少し長くなるけど良いか?何言ってんのお前とか言うなよ」
「時間あるし良いよ?」と了承を得たので、俺はこれまであったことをそのまま出来るだけ丁寧かつ簡潔に伝えた。話が進めば進むほど彼の顔色は曇っていった。
「こんなもんだよ。何か質問とかあるか?」
「質問って、お前。正直何言ってるか全く分からんかったぞ」
「だよなー」言うなよって言っただろ、とは思ったが仕方がないな、とも思った。
「じゃあ、少なくともお前の左隣にはその菫って子がいるのか」
「まあ、そうゆうことになるな」
「純粋な質問なんだが」と確認するように言う。「可愛いのか?」
「ああ、少なくともクラスの女子たちよりかは遥かに可愛いな」と冗談と本音を混ぜて言う。
すると、照れ隠しなのか知らないが彼女は小指を力一杯握ってきた。普通に痛い。
疾風はというと、俺の発言に興味を持ち、こちらに物凄い輝きを放つ眼を向けてきた。
「マジか!お前そんな子を自分の部屋に入れるとかやるな!」
「お、おう」
「とりま、お前の話は信じるよ。嘘を付いているようには見えないしな」
「そう言ってくれると助かるよ、ありがとな。こんな非現実的な話信じてくれて」
「俺が信じなきゃ誰がお前の話を信じるんだよ」
「はは、それもそうだな」俺が疾風の立場だったらきっと共感しなかったんだろうな。
俺の状況を大体は理解してとりあえずは納得したのか疾風は満足そうな顔をした。満足した大体の要因は菫の容姿のことだろうけどな。
話が終わると、疾風は俺に教室に戻ろうと誘ってきたので、その誘いを受け、彼女を連れて教室へ戻った。
戻る最中、菫が俺と疾風との関係について聞いて来たので、疾風が俺に話しかけてくれたことを話した。
教室へ戻ると皆、4時間目の準備をしていて、俺なんかが戻って来たのには気づいてはいなかった。
その後は午後の授業を受けた。心做しか菫は午前中よりも楽な表情をしていた気がする。
しかし、授業が終わると終業式が始まってしまい、体育館に全校生徒で集まる頃には菫の調子は元に戻っていた。
校長の話を聞いている間、菫は俺との距離をこれでもかというほど詰めてきていた。校長の話など聞ける状態にはなかった。
現実時間30分、体感時間4時間ほどの終業式が終わり、夏休みが始まった。
下校時間になると、疾風が「一緒に帰ろうぜ」と誘ってきたのでその誘いを受けた。
自転車を小屋から出して漕ぐわけにはいかなかったので、押しながら歩いた。
下校道中、疾風が彼女の容姿について執拗く聞いて来たが、「さっき言ったことまでしか知らん」と言い張り続け話題を変え、別れ道までどうにか凌いだ。
家に着き、一直線に自室に向かう。室内に入るとあまりの暑さで意識が飛びそうになった。すぐさまクーラーを付ける。部屋が冷えるまで
少しだけ時間があるので菫に「時間があるからシャワー浴びてくる」と言って1階に向かい、数分でシャワーを済ませる。寝間着に着替えるには早いと思い、てきとうな私服に着替えた。
自室に戻ると、ベッドの脇に三角座りをしたまま眠ってしまった幽霊がそこにはいた。
俺は良い機会だと思い彼女のことを見つめた。とはいうものの、初めて出会った時は暗闇だったこともあり菫の容姿や服装をあまりよく見ることができなかったのだ。
初めに見て思ったことは、暗闇の時でもわかったことなんだが本当に顔がいいのだ。俺は今まで見てきた女性の中で1番好みの顔つきだった。これは過大に思ってる訳でも、冗談で思っている訳でもなく本心から思ったことだ。
肩にまで付く光沢を放っている長い髪の毛を持ち得ていた。服装は白色のワイシャツに太ももを半分隠すくらいまである長さの縞模様のスカートを履いていた。三角座りをしていたのでもしかしたらあれが見えるかと思ったが案外ガードが硬いようだ。
幽霊だからなのか元々なのかは知らないが普通の人と比べると肌が少し白い。強く握ってしまうと簡単に折れてしまいそうな程手首は細かった。観察をすればするほど自分がド変態なのではないかと思ってしまって菫を直視出来なくなっていった。
容姿を一通り確認すると俺は彼女を起こさないように、そっとベッドの上まで運んだ。その後は夕食まで弄ろうと椅子に座りスマホを起動した。1時間ほどスマホを弄りゲームが1段落済んだ頃、窓の外に視線を送ると日差しが柔らかくなり、カラスが巣に帰って行く姿が見えた。俺はカーテンを閉め、照明を付けた。すると、照明の明かりが眩しかったのかベッドに横たわっていた菫が目を覚ました。
「お、おはようございます」
「おはよう。もう個人的にはこんばんはだけど、幽霊って眠るんだな」
「そうなんですよね。倉庫に居た時も偶に立ちながら寝てましたしね」
「疲れるんだな、幽霊も」
「そうですね。不思議です」
起きたばかりなのか菫は目を擦りながら回答した。
「あれ? ここはベッドの上?」
「ああ、流石に地べたに座ったままってのも悪いと思ったから運んどいた」
それを聞くと菫は少し顔を赤くした。
「へへへ、変なことしたりしてませんよね?」
「してないわ! そもそも幽霊にそうゆうことする訳ないだろ!」
「そ、それもそうですよね。いやあ、親が不在の思春期の男子の家で、無防備な女子が寝ているから何かしたかと思って」
「実際は26歳のくせに何自惚れたこと言ってんだ」
「26歳って言わないでください!」
「冗談だよ。すまんすまん」
揶揄うのが終わると、菫はベッドから起き上がり何かを思い出したのか「あ!」と大きな声を上げる。「どうしたんだ?」と聞く。
「寝たのお陰なのか少しだけですが、生前の記憶が戻ったんですよ」
「おぉ! どんな記憶なんだ?」次の菫の発言に俺は度肝を抜かされた。
「親友! 親友が居たんですよ。生前に私にも!」
「へ、へぇ。親友、親友か。どんな人だったんだ?」
「たしか優しかった気がします。ですが、名前や顔などはまだ思い出せていません」
「そうか。記憶を取り戻す手がかりとしては弱そうだけど」
「で、でも! 探しに行きましょう!我が友を!」
「え?そ、そうか。そうだな、探しに行くか」
記憶が少し戻ったと喜びたいところだが、この幽霊を成仏させる為にはその親友と最低限関わりを持たなきゃいけないとかと思うと気が進まなくなった。
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