第18話 突破後

「……なんとかなったか……」


 死神がうろつく通路を突破し、周囲に魔物がいないことを確認し、俺たちは大きく息を吐いた。


 異様な重圧が取り除かれ精神もずいぶんと楽になる。ああ、物音を立ててもいいってすばらしい。雑音万歳。


「……大丈夫ですか朝風さん!?」


 安堵するのも束の間、たまらずといった様子でユッキーさんが詰め寄ってきた。俺の体のあちこちにできた傷を気にしているのだろう。


「ああうん、見た目ほど深くはないから」


 そう言いつつカバンから回復薬ポーションのビンを取り出して一気に飲み干す。全身の傷がみるみる塞がり、痛みも引いていった。


 毎度思うが、すげえよなポーション。安全地帯セーフゾーンで調達した低品質のものでさえ、傷跡ひとつ残さず治してしまうなんて。試したことはないが、高級品ならば腕や足をチョンパされても元通りにできるらしいし。マジでパネェなポーション。


 これが日常でも使えれば医療大革命待ったなしの代物なのだが……あいにく、どういう理屈か『治せるのはダンジョン内 or マナを用いた攻撃による負傷のみ』であるためそうはなっていない。


 治癒スキルも同様であり、そのため日常の怪我はツバつけるなりお医者さんに治してもらうなりするしかないのである。


「……すみませんでした」


 治療は済んだにも関わらず、ユッキーさんはうつむいたままだった。


「私のせいで怪我をさせてしまって……。そもそも通路の罠自体も私が――」


「あー、それはもう気にしなくていいから」


 暗い声音でポツポツと語るユッキーさんに、首を振りながら答えた。


「さっきも言ったでしょ? 罠にかかったのは俺の責任でもあるって。それに悪いことばかりじゃない。脱出に使えそうな武器だって手に入ったんだし」


 呪刀・的殺てきさつを軽く掲げてみせる。


「それに俺も助けられてるんだし。ほら、最初に俺が警報引っかかった時。あれはユッキーさんがいなきゃ詰んでたよ」


 事前に備えていたからこそ、死神の攻撃をギリギリ避けられたのだ。不意を突かれたあの場面、とっさにユッキーさんが緊縛きんばくの呪符を使ってくれなければ確実に真っ二つにされていただろう。


「ダンジョンに不測の事態は当たり前なんだし、ましてや今みたいな不測の極みみたいな状況ならなおさらだって。あんま自分だけで背負い込まないでほしいな」



コメント

・そうそう

・無事ならええんやで

・それな

・腰タオルニキの言う通り

・ニキよく言った



「ほら、リスナーもこう言ってるよ」


「みんな……」


「俺がここまで無事なのはユッキーさんのおかげだし、今後も君の力が必要なんだ。これからも力を貸してほしい」


「朝風さん……」


「ほら、顔上げて。ふたりで先に進もう」


 俺がそう言うと、ユッキーさんはゆっくりと顔を上げた。


 ――瞬間、なぜか目をまん丸に見開いたあと、速攻で顔を伏せた。


「? どうしたの?」


「いっ……いえっ、あのっ、そのっ」


「別に焦らなくていいよ。なにか問題でもあるの?」


「問題っ、と言いますかっ、あのっ、いえですねっ」


「……よく分かんないけど、取りあえずこっちを見て――」


「――まずその格好どうにかしてください……っ!!」


 羞恥に満ちたユッキーさんの声。自分の体をあらためて確認しようと腰に目を落として――腰のタオルがズタズタになっていることにようやく気づいた。


 洗濯バサミが健気に仕事を果たしてくれているおかげで局所はかろうじてガードされているものの、状態としてはほぼ布が引っかかっているだけの状態だった。


 有り体に言って"湯上がり気分でダンジョンうろつく馬鹿"から"変態"にジョブチェンジしたような状態だった。


「――いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――っ!!」



コメント

・ニキwww

・嬉しくねえ悲鳴w

・てかふたりとも今気づいたのかw

・逃げるのに意識持ってかれ杉w

・さっきから精霊カメラさん謎の光出しっぱなしだぞ

・誰得なんだこの絵面……

・美女と奇声の変質者

・(あかん)

・朝風征馬せいまを許すな



 ダンジョンの通路に、俺の絶叫が響いた。


 ……なお、タオルは替えをカバンに入れてたのでそっちを巻いた。




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