第13話 翌朝
夜も遅いので、本日は探索を切り上げることにした。横倒しにしたテーブルなどの簡易パーティションでそれぞれのプライベート空間を作る。
「ベッドはユッキーさんが使いなよ。洗濯してるから汚くはないはずだよ」
「いえ、ここは朝風さんのお部屋ですのでベッドは朝風さんが使ってください」
「いやいや、ユッキーさんはお客さんだし。客人を優先するのが我が家の常識なん
だ」
本当は『可愛い子の手前、見栄を張りたい&譲らなかったらリスナーたちに怒られそうで怖い』という打算的理由なのだが、それは言わぬが花という奴である。
「……分かりました。ではお言葉に甘えさせていただきます」
という訳で今日はここいらで就寝。女の子が隣にいて果たして眠れるのか……と密かに思っていたが、それよりも疲労の方が上回り意外とぐっすり眠れた。
そして翌日。
「――はい、みなさんおはようございます。ダンジョン二日目、今日もがんばって脱出を目指していきますよー」
コメント
・がんばえー
・絶対に脱出しよう
・ウソみたいだろ、男の部屋なんだぜここ
・腰タオル爆ぜろ
・爆ぜろ
「まずは現在の情報の整理をしたいです。みんな、私たちの救助はいまどんな風になっているか分かりますか?」
コメント
・なんか救助隊が引き返したって言ってた
・地下二階へ降りる階段の辺りで魔物に襲われたって
・なんかよく知らん魔物らしい
・やばい強さだとか
・ひとり大怪我だって。一命は取り留めたらしいけど
「……救助隊が引き返した? じゃあ俺たちの救助は現状無理ってこと?」
コメント
・っぽい
・対策会議は開かれてるだろうね
・時間かかると思う
「そうなんだ。……ポイントも有限じゃないし、これはこっちから動いたほうがよさそうだよね」
何度も言うが
「ユッキーさん、引き続き上階への階段を探そう。階段を見つけたとして、昇るか、それともここを拠点に救助を待つかはその時の状況次第。だけど基本方針は自力での脱出。……どうかな?」
「はい。それでいいと思います。ですが救助隊が遭遇した魔物というのが気になりますね。仮に階段付近に陣取っているとしたら突破するのか否か、もし突破する場合はどんな手段を取るのか、それらを道々にでも考えておいた方がいいでしょう」
「うん」
ダンジョンは基本的に階層移動のための階段は一カ所だけ。もしそこに件の強敵が番人よろしく居座っているのだとすれば厄介だ。
一方でダンジョン中を歩き回っており、偶然救助隊と鉢合わせた……というケースだった場合、運がよければ遭遇せずにすむかも知れない。そうであることを祈っとこう。
「……では、準備をすませたらさっそく出発しましょう。朝風さん、カバンにちゃんとアイテム類を入れているかもう一度確認してくださいね」
「うん」
俺は部屋に置いてあった自分の肩かけカバンを引っ張り寄せる。この中には昨夜変換した
「……あ、ほらさっそく。これ朝風さんのじゃないですか? 落ちてましたよ」
そう言ってユッキーさんはなにかの道具を手渡してきた。
? 俺のカバン見る限り特に入れ忘れたものはないはずだけど?
……まあ見るだけ見ておこうか。角度的にちょっとユッキーさんの手が見えにくいから体そっちにひねって、っと。
「ああ、ありが――」
"とう"と言いかけた口が硬直、全身から脂汗が噴き出した。
ユッキーさんの手には、タンスの奥に隠したはずの『女子には決して見られてはならない危険物』が握られていた。
具体的には『赤地に銀の横ストライプの、真ん中辺りがくびれている円筒形の物
体』であった。
コメント
・あっ
・あっ
・あっ
・あっ
・あっ
・ちょwwww
「? どうしました?」
ユッキーさんは言いながら、右手の危険物をさらにこちらへ伸ばしてきた。
――なぜだ。なぜ隠し忘れた。複数個買ったのは覚えていたはずだろう。なぜ見落とした。なぜこんな極大ポカを。なぜよりにもよってこのタイミングで。なぜ。
おおっ、御仏よ。私は前世でなにをやらかしたと言うのですか。果たしていかな悪事を犯せばこのような因果をブチかましなさるのですか。いてまえ遊ばしますぞワレ(意味不明)。
「………………いや。それはそこに置いてていいから」
「え? これ探索用のアイテムじゃないんですか?」
「………………うん」
「そうなんですか。てっきり朝風さんがポイントで換えたものかと思っちゃいまし
た」
「………………そう」
「なるほど、元からあった朝風さんの私物なのですね。すみませんでした」
「………………うん」
「ところでこれ、なにに使うものなんです?」
「……………………」
コメント
・やめろおおおおおおおおおおおおおおお
・やめてえええええええええええ
・まずいですよ!
・それ以上いけない
・やめたげて
・本気で分かってないなこれw
・朝風さんにも己を磨く時間が必要なんですよ……
・腰タオルニキの元に笑いの神が降りたな
・切り抜きはやめて差し上げろ……
・ニキ、それでも強く生きるんやぞ
地獄の底に沈んだような顔の俺と、超高速で流れていくコメント群。
それら意味をまったく理解できないユッキーさんは、ひとりちょこんと首をかしげていた。
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