第19話 順調な道中

「――死体蹴りだーいちゅきっ!!」


 叫びつつ、俺は呪刀・的殺てきさつを魔物――動く骸骨スケルトンに振るう。じっとりと濡れたように輝く白刃がスケルトンの脊柱を両断。返す刃を別のスケルトンの頚椎けいついへと送りつけ、頭蓋骨ずがいこつをチョンパ。


「はいユッキーさんあとよろしくっ!!」


「――〈荒氷槍〉!」


 俺が時間を稼いでいるあいだに準備を整えていたユッキーさんのスキルが発動。鋭くとがった無数のつららがスケルトンの群れへと襲いかかり、残らず串刺しにしていった。


「お疲れ様でした」


「うん、そっちこそ」


 魔物たちが虚空へ消えていくのを確認し、俺たちは戦闘態勢を解いた。



コメント

・ないすぅ!

・ニキw

・なんちゅうこと口走ってんだよw

・強い

・順調順調

・ふたりともいいな

・ひとり危険人物いるけどな



 リスナーも俺たちの正々堂々とした戦いぶりに感嘆している様子だった。どうやら俺が生来持ち合わせている心の清らかさがにじみ出ちまったらしいな、やれやれ。


「しかし……呪刀・的殺これ、結構な拾いものだよな」


 赤い布の巻かれた白鞘をまじまじと眺めながらつぶやいた。


 素の切れ味もさることながら、マナ抑制の効果も大きい。


 なにしろ、魔物も探索者もマナの力を利用することで力の強さ、防御の硬さ、動きの俊敏さなどを得ているのだから。それが抑制されれば弱体化は免れない。


 つまりこれ、一撃入れるだけで相手に能力低下デバフがかかる刀だということである。


 呪いの武器だけに普通であれば使う側にもデメリットがある。こいつの場合、鞘から抜いているあいだは使う側にもデバフの影響が及ぶうえ、スキルの使用も封印されてしまうのだが――俺のユニークスキル〈タオル巻きし者〉は一定時間それらを無視できる。


 本来であればハイリスク・ハイリターンのはずの武器を、短時間のあいだとはいえノーリスク・ハイリターンで存分に振り回すことができるのである。


 おかげで道中がずいぶん楽になった。


 なにしろ、コソコソ隠れながら進む必要がなくなった。よほど不利な状況でない限り、正面から普通に切り込むだけで簡単に蹴散らせてしまえる。結果として戦闘回数も増え、Lvも上がり、ますます戦闘が楽になっていく。


 好循環である。ダンジョン脱出の先行きが徐々に明るい方向へ向かっているのを感じる。


 となれば現状、懸念すべき点はただひとつ。


「……これで気になるのは、救助隊を撃退した謎の魔物だけ、ってことかな」


「ええ……」


 ユッキーさんは重々しくうなずいた。


 リスナーたちの話によると、確か地下二階への階段を降りた直後に遭遇したんだったか。


 詳細は不明、ただ救助隊は相応の実力者が選ばれているはず。彼らを退けたということは結構な強敵と見て間違いないだろう。さすがにちょっと強化できたくらいでそいつにも勝てる、などと驕った気分にはなれない。


 そもそもそいつの情報自体がほとんどない。階段付近に陣取っているのか、それともフロア内をうろついているのか、それさえも分からない。


 懸念点ではあるが、考えたところで対策の立てようがないのが現状である。


「……まあひとまず、探索を続けようか」


 俺はそう言った。





「……?」


 通路を歩いているさなか、かすかにチリッとする奇妙な感覚がした。


 いや、奇妙というには覚えがある。


 これは〈タオル巻きし者〉の効果のひとつ、危機察知能力が発動した時の感覚だ。


「どうしました?」


「ユッキーさん、気をつけて。たぶん俺のスキルが反応してる」


 俺が言うとユッキーさんは即座に身構える。杖を両手でしっかり握り、周囲を警戒し始める。


 俺も別方向を警戒、天井や壁も漏らさずチェック。だが魔物の姿はどこにもない。


 気のせいだろうか? いや、また"危機察知"の感覚がした。かすかだが、さっきよりもはっきり感じられる。


 ……どういうことだ?


 分からないが、気を抜く訳にはいかない。


 また"危機察知"の感覚。同時に、曲がり角の向こうからなにかが這う音が聞こえてきた。


 これは……もしや魔物が俺たちに近づいているってことか?


 だが魔物が向こうからやってくるだけならスキルは反応しない。何度かそうしたことがあったので判明している。ということはこちらに攻撃の意志を――それもおそらくよほど強く明確な害意を持った存在ということだろう。


「朝風さん。いま物音が……」


「うん。俺のスキルも反応してる」


 なんにせよ逃げるにはもう遅い。俺は的殺の柄に手をかける。


 角の向こうから巨大な影が姿を見せる――


「……あいつはっ……!?」


 現れたのは、昨日遭遇した白い大蛇であった。




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