第2話 状況確認
少しだけ歴史の話をしよう。
二十世紀も終盤に差しかかったある日、地球上のいたるところに『
内部には人間などを襲う『魔物』と呼ばれる存在。同時に大気中から発見された
『
のちに『
だが、やがてダンジョン内部から回収された各種物品が人類にとって有益、かつ現代科学では再現不可能な存在であると判明。
同時にマナが新たなるエネルギー源として活用できる代物であり、さらには『魔物の不可思議な能力の
『ダンジョンとかマナとか放っとくとやべーじゃん & でもうまく利用できたら便利じゃね?』
そう考えた人類は、現代人がドン引きするレベルの超絶スピードで各種研究と法整備を進めていった。
同時にダンジョンへ(勝手に)突入し、(聞きかじりの)マナ操作能力を頼りに魔物と戦いつつ内部をあさり、お宝を引き上げ(裏マーケットで売って)一攫千金を狙う人々が各地に出現。
当初こそ問題視されたものの、現実として多数出現するダンジョンに各国政府だけでは対処しきれない。結果、徐々に"免許を持った民間人のダンジョン立ち入り及び物品回収の認可"へと舵が切られていった。
そして、二十一世紀となった現代。
ダンジョンやマナは良くも悪くも人々にとって身近なものとなり、『ダンジョン探索者』は一般に広く知られる職業となったのである――
……というのが、俺こと
「……どうしよ……」
改めて俺の置かれた状況をまとめる。
――俺がシャワー浴びてる時に自宅アパートがダンジョンに取り込まれた。
――外に出るためには全裸でダンジョン突破しなければならない。
終わってんじゃねーか!
「……くそっ、落ち着け……まずは落ち着け征馬……」
風呂のイスに座って独りごちる。ダンジョン内でパニックは大敵、まずは冷静になることが肝要。探索者教習所でも教わったことである。
……いくぶんか落ち着いた。ので、今後の方針を検討しよう。
例えば、このまま浴室に残って助けが来るを待つのはどうだろうか。
いや。望み薄だろう。
ダンジョンが発生してから探索許可が出るまでに早くても二週間はかかる。一方で人間が水を飲まずに生き延びられるのはせいぜい三日ほど。水が止まっている現状ではとても耐えられそうにない。
実際には探索許可が下りる前に知り合いなんかが『俺がダンジョン内に取り残された』可能性に気づいて救助隊を派遣してくれるだろうが……それでも間に合うとは思えない。
やはり、生還するには自力でのダンジョン突破が必須か。
ならば、と次は脱出に使えそうなものを見繕うため浴室を見回す。せめて脱衣所も残っていてくれれば……とは思うが、ないもんはしかたない。
まず風呂桶に溜まっているお湯。浴槽にはお湯を張ってないし、現状では貴重な飲料水である。
それから掃除用の青いナイロンブラシ。こんなもんでもマナを通せば武器にはなるだろうし、素手よりはマシか。
魔物は銃撃にも耐えられる強靱な肉体を備えた存在であるが、一方でマナを使用した攻撃であれば有効なダメージを与えられる。
つまり魔物は『拳銃バキューン』には耐えられても『マナを通したグーパン』にはぶっ倒される、ということだ。探索者の主要武器が『マナを利用しやすい』刀剣や鈍器などであるのはそれが理由である。
いちおう試しにブラシを手に取ってマナを通してみると、ちゃんと流れていく感覚があった。なんとかギリギリ武器として使えなくもない……はず。
あとは靴代わりの掃除用バスサンダル(グレー)。それと全裸でダンジョンを徘徊するのはさすがに気が引けるので、腰にタオル巻いて洗濯バサミで止めて……っと。
――いまここに、サンダル履いて掃除ブラシと風呂桶(お湯入り)を手にした全裸腰タオルのダンジョン攻略戦士が爆誕! ヨシ!
「 不 安 し か ね え ッ ! ! 」
こんなふざけた姿でダンジョン攻略とかヴァカか俺は! 大ヴァカだよ俺は!
でもしかたねーじゃん! だって普通は風呂場にダンジョン探索用の装備とか置かねーもん! 俺はそういうの専用の貸しロッカーに預けてんだもん!
おおっ、御仏よ!
果たして前世でいかなる罪を犯せば、全裸に腰巻きタオル姿でダンジョン攻略をする羽目になるというのですか!
……つーか。
仮にこんな姿で死んで、死体を他の探索者に発見されたりなんかしたら末代までの恥だよな……。
きっと細かい状況なんかは意図的に省かれたうえで、
『【バカ】入浴気分でダンジョンに潜った奴の末路www』
みたいなスレが速攻で立ち(偏見)、永遠にネット民のオモチャとしてイジられ続けることになるだろう(被害妄想)。
……うん。そう考えると闘志が湧いてくる。これは絶対に死ねない。意地でも生還してやるぜ、って気分になる。サンキュースレ民(妄想)。
ともあれ準備は整った。整ってしまった。
「――やってやろぉじゃねえか畜生めっ!!」
意を決した俺は浴室を飛び出した。
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