第15話 宝箱と死神

 発見した三つの宝箱トレジャーに、まずは〈罠探知〉を使用。反応なし。どうやら罠は仕掛けられていないらしい……もっとも、技量が低いので確実とは言えないが。


「で、どうしよう? 開ける?」


 ユッキーさんに確認を取る。罠の可能性を否定しきれないのもあるが、〈罠探知〉では擬態した魔物ミミックかどうかまでは見破れないという理由もある。


「開けましょう」



コメント

・即答w

・よしやめよう

・ニキ逃げてー

・前振りですね分かります

・芸人の真価が発揮される

・ユッキーの反対が正解



「……なんかリスナーがすごい止めにかかってるんだけど……」


「大丈夫! 今回こそは絶対に大丈夫ですから! たぶんきっと!」


 ユッキーさん、なぜそんな必死になるんだい?


 もっとも、開けることそのものは俺も賛成である。


 つーかむしろ開けさせろ! 物欲万歳! カネ・最強武器・レアアイテムの三種の神器よ我が手に宿れ! ……あ、それと脱出の役に立つかも知れないし。


「ユッキーさんがそこまで言うなら開けよう。ぜひとも」


「ですね。朝風さんもそう言ってますから今度こそ大丈夫です」



コメント

・迷いがないw

・判断が早い

・欲望は人を惑わす

・アイテムは大事だから……(震え)



 コメントでなんやかや言ってるみたいだけどボクらは気にしないぞ。


 はやる気持ちを抑え、まずは左にある箱を開く。さて中身は――



・自爆薬

※飲むと自爆できるよ!



「「…………」」


 いきなりなんの役に立つのか分からんハズレアイテムが出てきた。一説によると

『苦しまずに逝こうぜ!』というダンジョンからのありがたい配慮によって生成されたものであるらしい。いらん世話である。


 まあいいや。気を取り直して次は右、ほいっと。



緊縛きんばく呪符じゅふ

※呪いの力で相手の動きを止められるぞ!



「これはありがたいですね」


「うん」


 今度は使い捨てアイテムであるおふだが出てきた。こちらは普通に役立つアイテムである。俺よりも後衛のユッキーさんに持たせた方がいいか、と考え彼女に手渡しておく。


 さて次が最後。一段高い場所に置かれた真ん中の箱を開く。



・赤い布が巻かれた、見知らぬ白鞘の刀



「……見たことのない武器ですね」


「刀……なのは分かるけど。どれどれ――」


 俺は〈鑑定〉のスキルを使用。例によって初歩レベルの技量ではあるが、名前と効果くらいなら分かるはずだ。



■『呪刀・的殺てきさつ

・攻撃対象に対し、一定時間マナの働きを阻害する効果を発揮

・使用者は抜刀時、常にマナ阻害効果の影響下に置かれる



 ……うわ、呪われたアイテムかよ。こういう武具は強力な代わりにデメリットも大きいから扱いづらいんだよなぁ。


 というか入手物は自爆アイテムひとつに呪い関連がふたつ。なんというか、縁起の悪そうな取り合わせである。


「……この武器ですけど」


 ユッキーさんは白鞘の刀――呪刀・的殺てきさつを眺めながらつぶやいた。


「朝風さんなら呪いを無効化できるんじゃないですか? ほら、ユニークスキルの効果で」


「ああ、そうだね」


 確かに〈タオル巻きし者〉の効果には毒や呪いへの耐性付与がある。ただ完全・永続的に防げるのか、それとも限度があるのかはまだ分からない。


 石床を溶かす大蛇の毒液には耐えられているから結構効果は高いと思うが……あれも直撃ではなかったのではっきりと断定できない。


 ……まあその検証はあとでいいか。


「じゃあこれは俺が持つよ」


「はい」


 ユッキーさんから呪刀・的殺を受け取る。腰に差すにはタオルじゃ保持力不足なので手に持つことにする。


「さ、他になにもなければ戻ろう。たぶんお宝部屋だったんだろうね。なんにせよラッキーだった――」


 と言いながら振り返った俺は、すぐに異変に気がついた。


 俺たちが通ってきた広くまっすぐな通路――その中心に、赤黒い光の球が浮いていた。


 赤黒い球はマナらしき粒子を周囲にほとばしらせながら膨らみ、やがて泡のように弾け飛び、中から宙に浮く黒衣の魔物が出現した。


 遠目なので細部は分からないが、探索者をひと薙ぎで真っ二つにできそうな大鎌を両手で構えている姿が目を引いた。その不気味なたたずまいは"死神"を想起させるものであった。


「……なんだあいつ」


「私も見たことがありません。……ですがあの魔物、どうもこちらに気づいていないみたいですね」


 ユッキーさんの言う通り、あの死神みたいな魔物は俺たちを無視した動きをしている。宙に浮いたまま、通路の中を右へ左へと音もなくさまよっている。


 ここの通路は身を隠す場所がほとんどない。離れているとはいえこちらに気づかないのは不自然すぎる。というか体がこちら側に向いても一向に気づく様子がない。あれはいったい――


「…………あ」


 まるで『やっちゃった』と言いたげな表情でユッキーさんはつぶやいた。


「……なに? その"四連敗目に、よりにもよって他人を巻き込んでしまった"みたいな顔は」


「……いえ、まあ、その、なんといいますか。つまり、単刀直入に言いますとね」


「言いますと?」


「……おそらく、罠のたぐい……じゃないかと……」


「……ああ……」


 なんか分かった。


 つまりあいつはトレジャーの入手に反応して出現するタイプの魔物である、と。


「……じゃあこれ戻したらあいつも引っ込むのかも……」


 と言いながら呪刀・的殺を箱の中へと戻す。だが死神はそのままだ。残りの二つを戻しても結果は同じだった。


 どうやら引っ込みのつかない罠であるらしい。


「……ほんっっっとうにすみません……」


「いや、それなら俺も同罪だし……てかなんで『私は愚かな芸人です』って顔してるの?」


 まるで、過去三度ほど似たような経験があるみたいな表情である。



コメント

・芸人ぇ……

・ここで芸人発動か……

・芸人の宿命(さだめ)

・朝風氏も芸人なのでセーフ



 コメントの雰囲気から、なぜか顔も知らぬリスナーたちの訳知り顔が思い浮かぶ。俺が知らないところでなにかあったのだろうか?


 ……まあいいや。とにかくいまは死神あいつである。


「……そ、それでですね。おそらくあの黒衣の魔物は視覚で探知しているのではないのでしょう」


 ユッキーさんが頬を叩いてこちらを向く。


「たとえば音やにおいに反応するとか」


 言いながらユッキーさんは声のトーンを落とす。


「だからまだこちらに気づいていないのだと思います。つまりこの罠は、徘徊する魔物に見つからないように離脱する趣向のもの、ということです」


「……なるほど……」


 俺も小声で話す。


 せっかくだし〈Lvチェック〉しておこうか。ちょっと遠いけどいけるか……。


 スキルを使用した俺の視界、小さく映る死神の頭上にLvが浮かび上がる。しかしそれは『Lv―――』という、数字が示されないものであった。


 教習所によれば、このLv表示となるものは『魔物であって魔物でない、ダンジョンの仕掛けの一部と見なすべき存在』であるらしい。


 なるほど。あいつの存在そのものが罠であり、"見つからずに離脱する趣向"というのは事実と見て間違いないだろう。


「……まずはゆっくり近づいて様子を見よう。なにに反応するのかを見極めるんだ」


「ですね」


 ユッキーさんはうなずいた。




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