第3話 爆破

環状線に揺られながら、渋谷へ向かう。渋谷には遊びに行く以外、来たことがない。ただし、遊びに行った中では多く行った場所かもしれないが。お洒落に興味があるかと聞かれると、ないよりある、と言ったほうが聞こえがいいかもしれないと思うほど、無頓着なので、渋谷で買うものが分からない。雑貨にも興味がない。だから、ただ「遊ぶ」のだ。

ただ、今日は遊びでも買い物でも徘徊でもなく、何かの使命か、いや意味が分からない。文字もなく、書けもしない例の本に書かれていたのだ、『渋谷に9時』と。人混みの車内でポツンと自分が浮いている、今日はクリスマスなのだから。目の前には、男の胸に肩をもたれる女がいる。小さい吐息まじりの声がポツリポツリと交わされる。俺は適当にスマホを眺める。





渋谷駅は人で溢れていた。厚いコートを着込み、淡い色合いをまとった人々が行き交う。黒いコートの俺は浮いてしょうがない、というのは自意識過剰か、何となく自分の気が立っていた。とにかく構内から出ようとまっすぐに進む。あの文章が、「渋谷にいろ」ということを指しているのか、何なのかよくは分からない。しかし、人の多い場所で呆然と突っ立っていたくはない。

有名な洋楽がどこかからか流れている。心の中で口ずさむと気分は落ち着き、例年と同じただのクリスマスではないかとさえ思う。例の本を鞄に入れて携帯しているのも同じ、いつもの自分のクリスマスだ。ただ、その本の重みがいつもと違った、そんな風に思えるが冷静になれば別に変わってはいない。

駅構内から出ると、雪が降っていた。白い息が上るのを見上げる。渋谷の空が白く明るかった。

スマホを確認すると、20時59分。ピッタリに来すぎてしまったのか、気味が悪いと思った。おもむろに本を取り出す。

あの文章が書かれていたのは、本のほぼ半分あたりのページであった。俺は右手でページの端を押さえ、ペラペラとめくる。新書ほどの暑さの本はしばらくするとめくり終わってしまった。何の記述も見つけられなかった。もう一度、ページ端に手をかける。それは割りと後半のページだった。見開きいっぱいにそれはあった。



rewrite this world


俺の眼前にあるビルから炎が吹き出した。


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