第30話 昼休み

2限の現代社会論を終えて昼休みとなり、俺とイザナミとマナの三人は食堂にいた。俺とマナは受けとり口で料理を受け取り、空いている席を探していた。

「なかなか空いてる席ないね」

多くの学生が短い昼休みの時間を利用し、この食堂で昼食をとって午後の講義に向かう。そのため食堂は忙しなく人が行き来しており、昼休みの早い時間から席は埋まってしまう。

「あっちの席、空いてないか?」

俺は向こうに見えた、空の四人席を指差す。マナは小さく喜んでその方へ向かった。

「っていうか、あいつは何処だ?」

俺はイザナミが見当たらないことに気づく。まだ会計を済ませていないのか、食堂を見渡しても姿は見えない。

「本当だ! ミナミちゃんいないや」

マナもキョロキョロと首を振る。

「とりあえず席に行くぞ、誰かに取られると悪い」

「あ、そうだね」

マナは席の方に向かった。俺もマナの後ろをついて狭い席と席の間を進む。そして席に適当にトレーを置いてイザナミの姿を探す。

「……いないな」

すると自分の背後の方で声がした。

「お待たせ! 二人とも」

イザナミがトレーを持って自分の背後に立っていた。

「ミナミちゃ……ってそれ!」

イザナミは何食わぬ顔をしているが、ミナミはイザナミの持っているトレーを見て驚いていた。

「あっ、これ?」

イザナミはトレーを胸の前に掲げてこちらに見せる。トレーの上にはこんもりとうずたかく盛られたモヤシとネギがあり、皿にはなみなみとスープが皿の縁まで溢れており、トレーを少しでも傾ければこぼれてしまいそうだ。

「良いでしょ! 味噌ラーメン特盛にサービスでチャーシュー3枚もつけてもらったよ」

マナは驚きを隠せず口を押さえており、俺は呆れて苦笑いをする。

「……おい、お前それいくらだったんだよ」

イザナミは俺の質問に答えず、マナの方を向いて何故か自慢気にバカでかいラーメンを見せつけていた。マナは若干引いている様子で小さく笑うだけだった。

「おい、てか食べきれるのかよ」

イザナミは不意に俺の方を向く。

「何してるの? 冷めちゃうから早く食べようよ」

俺はうんともすんとも言えず立ち尽くす。イザナミは席に腰を下ろしてラーメンと向き合い、箸を割る。

「何なんだか……」

俺とマナも席につき、三人で手を合わせていただきますと呟く。早速イザナミはモヤシの塊を頬張る。ろくに噛んでもいないだろうにすぐ飲み込んで、次はモヤシの間を掻き分けて麺を掬い上げするすると吸い上げる。

俺もカツ丼を頬張り、イザナミの食べっぷりを眺める。こんなに食い意地を張る奴だったかと意外に思う。横でマナはおしとやかに蕎麦をすすっていた。口たくさんに頬張ったイザナミはマナの方を見るので、マナはクスクスと笑っている。

「……マナが食べられないだろ」

イザナミが眉を寄せて俺の方を見る。

「ほうひへ?(どうして?)」

俺も思わず吹き出してしまう。マナもつられて笑うが、イザナミは分からないようで目を見開く。しかし自分の顔を見れば、物など食べていられなくなると思う。

「は? はにははっへるほ(何笑ってるの)」

「もう喋るな」






俺とマナはほぼ同じタイミングで食事を終えた。そしてなんと、イザナミは俺たちが食べ終わるより前に食べ終わっていたのだ。

「遅いよ、こっちは特盛になのに」

俺は呆れ返り椅子の背もたれに寄りかかる。

「お前、腹壊すなよ」

「こんなんで私の胃は潰れないわよ」

マナは笑顔で俺とイザナミを眺めている。

「マナちゃんもまだお腹空いてるんじゃないの? そんなお椀の一杯も埋まんないくらいじゃね」

マナは首をブンブンと振ってイザナミの提案を拒否している。

「お腹いっぱい! 食べれないよ」

「そうかな~」

マナは笑って、イザナミに向き合った。そしてイザナミは思い出したように口を開く。

「でもこの前、二人で並んで歩いてたじゃん? いつの間にそんなに仲良くなったの?」

イザナミはニヤニヤして俺とマナの方を見る。俺はとぼけてイザナミに瞬きしてみせる。しかしマナは慌てて否定した。

「そ、そういうんじゃなくて!」

「なになに? 別に二人ができてるだなんて私思ってなかったんだけどな~」

マナは頬を赤くして歯を食いしばっている。

「違うの! あのときはもう一人いたの!」

イザナミは『あれ?』と言うように見当違いに思ったような顔をした。まさか俺とマナが逢い引きしていただなんて、本気で思っていたのか?

「ああ、その時は学校を案内したやつと一緒に帰っていたんだ」

マナも頷く。

「そう、テンマくんって男の子なんだけど……突然いなくなっちやって」

イザナミは訝しげに話を聞き、納得いかないような表情をしている。

「なんだけど、今日その彼がいないみたいなの」

マナは心配そうな顔をしている。俺は、せいぜいサボりか何か用でもあるのではないかと思っている。しかし、マナは一緒に授業を受けたいと持ちかけていたりしたので少し気がかりにしているようだった。

「……なるほどね、そのテンマとやらを探せばのね」

マナは少し驚いたようだった。

「まあ明日はいるかもしれないし、そんなに心配してくてもいいか」

「ふーん」

イザナミは口を曲げ、腕を組む。そんな二人を横目に俺はトレーを持って席を立った。

「おい、授業始まるし行くぞ」

マナは慌てて机に手をついて立ち上がる。マナはまだ腕を組んで椅子に鎮座していた。

「……おい、置いてくぞ」

イザナミはやっとこっちを見たが、悩んでいるような表情は変えない。

「はーい」

イザナミはつかつかと歩き、俺とマナを追い越して食器を片付け、食堂を後にしていった。






◆◆◆

今年多くの人にご愛読いただいて、とても嬉しいです! 来年もボチボチ書いていきます。いつもお読みくださりありがとうございます!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る