第18話 師匠のチェンジは可能ですか?


 竹の揺れる音の中で、大男が宙を舞っていた。


「ぐぅおおおおおおおおお!?」


 一回、二回と。

 地面に叩きつけられては持ち上げられ。

 大男は宙を舞う。


「ふがぁ!?」


 最後は顔からダイブさせられて終わった。

 

「ふむ、受け身は取らないと危険じゃぞ? 父上によろしくのぉ~」


 うひ。

 顔面を擦り傷だらけにした大男……いや、角が2本あるから鬼人か。

 凄く怖い顔で睨んでから帰っていった。


「なに、いまの?」


「おおジンか。 ふむ、道場破りかのぉ、物騒な世の中じゃ。 それよりその手の物はなにかのぉ? わらわ、おなかペコペコなんじゃが?」


 鬼人で父上の知り合いの道場破りねぇ?

 まぁ話したくないならいいけど、物わかりのいい5歳児なので聞きませんけど。

 

「うーん、ビノの実はクタクタに煮たほうが好きじゃ」


 生でも結構いけるでしょ?

 それにここキッチンないじゃん。

 もうちょっと生活に必要な物を用意したほうがいいな。

 竈でもつくろうかな。


「まずは気の特訓からじゃな」


「はい」


 僕はいつもの石の上に胡坐をかいて座る。

 師匠は背中に手を置いてゆっくりとルーナの気を送ってくる。

 抵抗するように心臓は激しく脈打つ。

 体がポカポカと温かくなっていく。

 彼女を気を押し返し自身の周りに留める。


「よし。 ではそのまま半刻ほど維持せよ」


 半刻は一時間くらい。

 僕は自身の気、黄金色の気を意識しながら目を瞑り胡坐をかく。

 意識から外れると外へと発散してしまう。

 体の周囲に留め体内で循環させる。


「……完璧じゃのぉ」


 目を開けると世界が変わって見える。

 ああ、この感覚はいいな。

 自然の生命力に触れているような、一体感。

 瞑想にはまる人の気持ちがわかる。


「うむ。 ではわらわの気の流れを意識してみよ」


 ルーナの演舞をみる。

 自分の気を意識しながらは大変だったんだけど、なんとかできるようになったな。

 なるほど、演舞の動きの中でルーナの気の流れは強弱をもっている。

 

「……もうできるようになったか?」

 

 演舞が終わり額に汗を流すルーナは驚いていた。

 コツを掴めばそんなに難しくないけど。


「普通は自分の気を維持できるようになるのに1月はかかるかのぉ」


「そんなに?」


「うむ。 それにわらわの補助なしでももう気を巡らせられるじゃろ? 2、3年は修行せんと身につかんぞ」


 ほんとだ。

 わりと簡単に気を張り巡らせることはできる。


「……くはは! 愉快じゃ、こんな田舎に天才がおったの。 神童のジンじゃ!」


 絶対ふざけてるよね?

 気の才能なんていらないから魔法の才能がほしい。


「うむうむ。 顔も良く才にも溢れておる。 メリサ殿のご子息であるし十分じゃな」


「?」


「喜べジンよ! この天才美少女武闘家、ルーナ・ラルーアの婚約者にしてしんぜようぞッ!」


 大丈夫か師匠?

 ぺったんこ残念師匠のお婿さんなんて嫌ですが??

 廃墟の道場でのじゃ鬼人ナイチチ美少女(生活力皆無)の世話係なんて。

 誰が喜ぶのそんなの。







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