第7話 母の特訓は超体育会系


「ただいま~」


「おかえりなさい」


 僕はルーナのいた武練場から家に帰ってきた。 

 あそこはみんなで武の訓練をする場所というより、ルーナの道場のようだ。 町にはたくさんの道場があるので不思議ではないが……、あんな廃墟のような道場はみたことがない。 

 道場の佇まいはその門派の威厳だからだ。


「さぁ、ご飯を食べたら特訓よ!」


「……はい」


 母であるメリサは実に真面目な人だ。

 教育ママさんに火をつけてしまったらしい。

 

「今日は、どこに行っていたの?」


 食事時の何気ない会話なはずなのに、僅かに怒気が含まれている。

 そもそも、その答えは決まっている。 訓練場兼託児所、そこに僕は行っていたことになっている。 

 なるほど、僕がそこにいなかったことを知っているのだ、母は。


「ん……ちょっと町を散歩してたの……」


「そう?」


 町の警備隊である母にこの嘘はまずかったか?

 別に本当のことを言ってもいいのだけれど。


「森には近づいてはダメよ? それに人気の少ないところもね」


「はい、母様」


 夕飯の後は母との特訓だ。

 僕の腰にぐるぐると縄が巻かれ、その反対側には重しだ。


「……」


 前世に昔の映画でみたような。

 熱血青春漫画でありがちな装置を腰に付けられた僕。


「さぁ! 走りに行くわよ!!」


 母の特訓は超体育会系だった。

 体を痛めつけることに特化した特訓。 

 小さい頃に筋トレをしすぎると背が伸びなくなっちゃうよ!?


「あらあら、じゃあジンはずっと可愛いままね。 素敵だわ~~」


「あぁ、っはぁ……うはぁ……」


 僕の魂の叫びは通じず、短いながらも濃密な特訓が始まる。

 重しをつけたダッシュ、スクワット。

 母に脚を持たれながらの腕立て。

 子供の体は軽いから、過負荷トレーニングはきつすぎる。 筋肉が悲鳴を上げているよ。


「猫人族に身体能力で勝てないなら、勝てるまで鍛えればいいのよ」


 脳筋理論きたこれ。

 

「もう……むり……」


「今日はこのぐらいにしましょう。 ……はい、じゃあコレ・・を飲んで寝なさい」


 時間にして特訓は一時間程度だったが、僕の体はどこも動かない。

 体中全ての筋肉が傷めつけられている。

 突っ伏したままの僕を、母ゆっくりとおこして、何かを飲ませようとしてくる。


「っ!? 母様、こ、これはなんですっ!?」


 異常なニオイに僕の鼻が危険信号を脳に叩き込んだ。

 母の手に持つコップには、緑色を混沌に放り込み深淵を叩き込んだような、禍々しい緑の液体が入っていた。


「我が家の特性の薬草茶よ! これを飲めば体内の内功に作用し、体力回復効果があるのよ。 さらに傷ついた筋肉は強く再生し、強靭な肉体をつくるの。 武術の訓練の後にはみんな飲んでるわよ」


 もっとも子供はあまりのまないけどね? と母はボソリと呟いた。


 そしてその理由はなんとなくわかる。


「さっ、飲みなさい」


「ちょ、まっ! ――っぶえ、ぐゅっ!?」


 母によって無理矢理流し込まれた我が家特製の薬草茶。

 あまりのマズさに僕は反射的に吐き出そうとするが、顎を押さえられ鼻を閉じられた。

 息ができない。

 

「さぁごっくんしましょうね?」


 まるで飼い猫に無理矢理薬をのませるようだ。

 僕は涙を流しながら劇薬を飲み込んだ。

 その瞬間、喉は焼けるように熱く、胃は混乱して踊り狂うかの用に飛び上がり、痙攣しようとする僕の体は母の豊かな胸で押さえつけられた。


>>>システムアラーム 体内への毒の被害を確認。 抵抗力での防衛は可能と判断。 システムアラーム解除。 


「母様……」


 『毒』入ってますやん!?

 そう僕はツッコミを入れる前に、気を失うのだった……。




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