第6話 こんな人気のない場所で何をしているのかと思えば……
武練場に風が舞う。
「……」
ルーナの演武は流麗で踊っているようだった。
道着の裾が広がり芸術的な曲線を描き、ときたま強く踏み込む足の音にびくりと体が跳ねた。 白銀の髪が散る度に光を煌めかせている。
これは本当に武術の演武なのだろうか?
今までみてきた武術とはまったく異なっていた。
「見惚れていては修行にならんぞ、ジン。 わらわの動きを見るでなく気の流れをみるのじゃ」
気の流れ……。
目に見えない物なんて、と言いたいところだが魔法だって存在するんだ。 気ぐらい存在するのだろう。 魔力を習得するための特訓は前世散々にやってきた。 それはもう気が狂うほどにやったよね。
重要なのは集中力。
そして信じる心。
あると思えばある。
なせばなる!
集中ッ!!
「いや、そんな眼玉が飛び出るほど見開かんでもよいじゃろ……。 なんか怖いのぉ」
ふふふ。
さっきの謎の出来事で、僕は知ったのだ。
魔法は使える、いや、魔力はあるということを。
しかも、今現在、使っているということを!
「ふふふふ!」
「いや、じゃから怖いて……」
溜息と共にルーナの演武は終わった。
結局、気の流れというのはよくわからなかった。
「ふむ、まずは己の気について知る方が先のようじゃの」
「どうすればいいんでしょうか?」
「とりあえず脱ぐのじゃ」
「……」
少年の裸に興味のある変態さんだったか。
こんな人気のない場所で何をしているのかと思えば……、くっ、異世界も治安がよくないらしい。
「なにか勘違いしとるようじゃが、わらわの気を送るのに服が邪魔なだけじゃ!」
僕が自分の愚かさを呪いこれからの理不尽を覚悟した瞳で睨んでいると、ルーナは訂正する。
少年好きの痴女ではないようだ。
一安心して上着を脱いだ僕の背にまわりルーナは手の平を背にあわせた。
「目を瞑りわらわの手に集中せよ」
少しひんやりしていた手は徐々に温かくなり、僕の体へと広がっていく。 肩甲骨を過ぎて肩を通り肘を通過し指先にまで、同じように脊髄を伝わるように腰へ、股関節を通り膝を抜け足先に。
「わらわの気と主の気の境目を感じるのじゃ」
「ん……」
徐々に強まるルーナの存在。
それでも僕の背面だけだ。
脈打つ心臓は激しく、僕という存在をうちだす。
それは内面から。
外へ外へと抵抗しているナニか。
これが、気ってやつなんだろう。
内から外へと、発散しようとする存在。
「ふむ、どうやら感じ取れたようじゃの」
「……はい」
収穫はもう一つ。
僕の体内に蠢く塊がある。
そいつは体の中心で渦巻いている。
(これは……)
気を色で表すなら黄金、たいしてこいつは紫紺色。
これが魔力であると、僕は確信する。
そすると僕の体を纏う紫紺の膜に気づいた。
動きを阻害したりはしない。 ウェットスーツのようにぴったりとはりついている。 触れることもできない。
紫紺の渦から漏れ出る靄が膜を形成している。
(これは、パッシブ魔法!)
自分の意志ではないけれど、初めての魔法に僕は歓喜した。
僕の魔法使いへの道は光がさしている気がする。
「よし、では次はゆっくりとわらわの気を押しのけてみせよ」
「――はいッッ!!」
「っ! なんじゃ急に元気になりおってぇ!?」
僕のテンションの急上昇に、ルーナの気の動揺が伝わる。
意思による制御。
なるほど、なるほど。
精神力が重要なようだ。
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