第28話 ボロボロのルーナ


 なんだかボロボロのルーナ。

 

「巻き込んでしまってすまないのぉ、ジン」


 珍しくしおらしい。

 

「まさかジンを狙ってくるとは……そこまで落ちぶれたか」


 鬼人の大男は連行さられていった。

 僕の顔の傷を見た母様が鬼の形相で。

 きっとキツイ取り調べが待っているに違いない。


「ジン……お主なんだか妙な気の纏いかたをしておるな? 気の流れが読めぬ」


「そう?」


「うむ。 気は感じるのだが……霞がかった空のようじゃ」 


 魔力を纏うとそうなるのか。

 なんか脱出するときに無意識でやって以来、同時にできるようになった。

 なんでかはわからないけれど。

 同時にできるといっても、別々にできているといった感じ。

 魔力の膜の中で気を留めている。

 お互いが傷つけあわないように性質を変えながら。

 僕は気と魔力の性質変化を身に着けた。

 自己流だけどね。


「可愛い顔に傷がついてしもたのぉ」


 そういってルーナの手が頬を包む。

 温かな気に覆われる。

 気持ちいい。


「ん……」


 気の性質変化、浸透……治癒?

 

「ふむ、もう大丈夫じゃな」


「あれ?」


 3分もたたずに熱と傷を持っていた頬は元に戻っていた。

 治癒魔法だと……?


「すごい! ルーナ魔法使えたのッ!?」


「おわっ!? なんじゃっ!?」


 思わずルーナに抱き着いて見上げる。

 母様だったら胸にうずまるのだけど、絶壁である。

 無駄な肉はなく痩せている。

 もう少し食べたほうがいいよ?


「……なぜ残念そうな顔をするのじゃ? わらわは魔法など使えぬ。 気功治療じゃ、まぁこれも使える人間は珍しいがのぉ」


「魔法じゃないんだ……でも、凄いね」


「おそらく、お主も使えるようになると思うがの。 お主、気が見えておるじゃろ?」


「?」


 ずいぶんと今更の質問だ。

 

「普通は見えぬ。 長い修行の果て気を感じる、流れを読む、朧げに輪郭が見える。 その程度じゃ」


「え、そうなの?」


「そうじゃ。 お主のように直接見えるものなど、それこそ神童と呼ばれる者くらいじゃ」


 そうだったのか。

 ルーナが当たり前のように言ってきてたからみんな見えるのだと思ってた。


「治せるのなら、治せば?」


「いいのじゃ」


 どこかすっきりとした表情でルーナはそう言うのだった。



◇◆◇



 椅子に縛り付けられた大男は項垂れている。


「ただの親子喧嘩の使い走りみたいね」


「そうか」


 取調を行う小屋には若い男女が二人。

 

「そんなに心配しなくても大丈夫よ」


「はは、わかってるさ」


 蒼色のポニーテールの女、メリサは不安げな夫を励ます。

 逆に心配するなとタブラはおどけて見せる。


「アレを渡してる限り裏切らないだろうさ」


 武術国家では異色なタブラは訳ありであった。

 そもそも国自体が辺鄙も辺鄙な場所であり、武を極めんとする者たちが最後にやってくる場所でもある。 彼以外にも他所でやらかした訳ありなどたくさんいるのだ。

 そしてそういった連中を引き出せといってくる者たちもいる。

 それを匿うかどうかは領主次第である。


「ふふ、もしわたしたちにちょっかいを出そうとしてきたら、遊んであげるから大丈夫よ?」


 空色の瞳は燃え、口元は愉快気に笑う。


「はっ、くく。 ミレアは本当に世界で一番綺麗だ」


「もう」


 タブラは初めてミレアを見た時を思い出し、優しく抱きしめる。

 決してこの幸せは手放さないと。

 一つ多くなった大切な者も含めて、新たに決意を固めた。



 タブラの心配は他所に時は過ぎていく。

 ジンが運命の邂逅を果たすその時まで。

 世界が動き出すその時まで。



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武の調べは天魔を喰らう 大舞 神 @oomaigod

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