第22話 精霊芝茸


 天才だ。

 満面の笑みで採集物を見せつけてくる息子をタブラはそう評価した。

 

「っ……」


 息子から茸を受け取り確認する。

 間違いない、『精霊芝茸』であった。

 虹色カブトムシとは比べ物にならないほどレアな採取物である。

 一流のハンターでも生涯に一度取れるかどうかといったほどの。


 それを僅か5歳の子供がいとも簡単に捕まえてみせた。

 そう、捕まえたというところが奇妙で天才と言わざるおえない。


「どうやって捕まえた・・・・?」


「ん? 普通に?」


「……」


 普通は捕まえられない。

 『精霊芝茸』はこの世界に存在しないのだから。


「……そうか。 よくやったな!」


 タブラはジンに負い目があった。

 まるで人形のように感情のなかったジン。

 精霊付きか異能付きか、おそらくタブラの血の影響によるものだと、考えていたから。

 瞳――魔眼に呪われている。

 長くは生きられないだろうと、深く関わるのをやめた。

 自分の子供だというのに。

 

「父、コレ高い? どのくらい?」


「あ? 値段か? そうだなぁ……」


 一生遊んで暮らせる値段だ。

 

「金貨300枚くらいかな?」


「300っ!?」


「く、くくく。 まぁ買い手がつけばな?」


 あまりに表情豊かに驚く息子に、タブラは笑みをこぼす。

 ゆっくりとだが、父親としての自覚がでてきたのだろう。

 

「あんまり売れない?」


「いやそんなことはないが、……まぁ色々難しい、な。 なんなら俺が100金貨で買い取ってやろうか?」


「金貨100枚ッ!?」


「ぷっ」


 母親似の息子が母親はしないような顔で驚くのは面白い。

 ずいぶんと買いたたかれているのに嬉しそうだ。


「それで? そんなに大金もらって何が欲しいんだ?」


 武術に傾倒するこの国では、金があっても使い道はあまりない。

 領主や門派の長であれば色々物入りになることもある。

 ただ子供には使い道がないだろう。


「師匠の冬支度?」


「はぁ? 師匠って……ああ」


 ジンの師匠、ルーナ・ラルーア。

 ようは女の為に金を貢ということ。

 若いのに自分に似て女好きのようだと苦笑する。


「まぁほどほどにな?」


「うん?」


 なんだか息子と上手くやっていけそうな気がしてきたタブラであった。


 

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