第19話 甲斐性は重要です


 「お断りします」


 丁重にお断りした。

 ドヤ顔だったルーナは驚いて喚く。


「なぁ!? こんなに美しく性格の良いわらわのどこが気に入らないのじゃ!?」


「甲斐性?」


「ふぐぅ!? ……5歳児のクセに難しい言葉を使いよるッ!」


 盛大に気の乱れを感じ取れる。

 なるほど、精神的に不安定になるとより顕著になるらしい。

 

「ぐぬぬ……」


 しかしなんで急に婚約者なんだろう。

 さっきの大男が関係してそうだが、面倒だしどうでもいいか。

 僕は魔法が使いたい。

 今日の気の特訓はおしまい。

 魔力を練る特訓を開始するぞ!


「ふぅ……!」


 魔力のある場所。

 魔力庫となずけたその場所をノックする。

 どん、どんっ、ドンッ! と激しく叩き魔力を溢れさせる。

 体に魔力を纏わせる。


(やっぱり気と同時は無理か)


 なぜ無理なんだ?

 どうすればできる?

 自問自答を繰り返し研究する。

 ああ、最高だ。

 至高の時間だ。


「ノートが欲しいな」


「ふむ、紙は貴重品じゃぞ? ……甲斐性を示せということかのぉ? 実家に帰ればたくさんあるのじゃが……いや、しかし……」


 研究成果をメモしたい。

 後の偉大な魔導書の第一歩として。

 ぶつぶつ言ってるルーナは放っておこう。

 

 纏った魔力は安定している。

 最初は荒れ狂うように不安定ですぐに戻ってしまうのに。

 この状態で気を纏う?

 順番を変えてみようか。


「あ……」


 ダメだった。

 イメージとしては薄く張った紫紺色の魔力を黄金色の気のトゲが突き破った感じ。

 相反する性質・・

 どうすればうまくいくだろうか?


「「う~ん……」」


 寂れた道場に竹林の揺れる音は寂しく奏でられていく。



◇◆◇



 赤の屋敷。

 周囲とは明らかに位のことなる豪邸。

 調度品も渡来の物が多く、実用性も兼ねた華美な魔道具が部屋を優しく照らしている。

 そこには女主人と猫獣人がいた。


「そう。 あの娘、元気そうだったの?」


「はい」


 女主人は妖艶な美女だ。

 赤い民族衣装のようなドレスを着ている。

 部屋着にしては装飾が華美である。

 それは屋敷に住む者の財力を表しているようだった。


「はぁ……。どうせすぐに帰ってくるとおもったのに、予想外ね」


 家出中の一人娘を心配する母親。

 いや、その表情はとても心配していそうではない。


「まぁいいわ。 まだ時間はあるもの。 それよりあなたずいぶん艶々しているわね?」


「はい。 蒸し薬草風呂とマッサージを受けてきましたので」


「いいわね。 でもそれだけじゃないでしょ? ……旦那と仲直りしてきたのかしら?」


 部下猫獣人の性格を知っている女主人はそんなわけないだろうなと思いつつ尋ねた。


「いえ、ありえません」


「あら、じゃあ新しい男かしら? いいわねぇ~~」


「……」


 女主人の性格を知っている猫獣人は言い返さない。

 

「もう、つれないわね。 ……それで? アレは手に入ったのかしら?」


「はい。 今後も採取には影響ないようです」


「ふふ、なら良かったわ」


 女主人は受け取ったモノを手に妖艶な笑みを浮かべるのだった。


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