第20話 母様、盗み聞きしてましたか……?

 今日も今日とて修行である。


「折れる! 折れますッ! かぁさまぁああああああああああああああああ!?」


 母メリサの修行は地獄である。

 柔軟性のトレーニングは虐待としか思えない。

 僕は壁に足を掛けさせられて、母様はリズミカルに体重をかけてくる。

 膝がっ、股が裂けるゥ!


「大丈夫よ、子供はそう簡単に折れないから。 大きくなってからだと本当に折れちゃうから大変よ~~?」


「ぎぃえっ!?」


 柔軟性、持久力そして忍耐力の特訓は地味で地獄。

 姿勢を矯正させられながら強制柔軟トレーニングは進んでいく。 


「ふふ、柔軟性に種族は関係ないのよ? むしろ余計な筋肉がなく骨格もスマートな人族の方が優秀なのよ。 鍛えればね」


「ぐぅん!?」


 股裂きをしながら、母様は体の協調性が重要なのだという。


「体が固いと体の協調性が悪くなるわ。 経絡の流れを阻害することになるの。 気の流れが悪くなるで通じるかしら?」


「気の流れ……」


 ニコニコしている母様から圧力を感じる。

 そういえばまだルーナのところに行っているの伝えていない。

 なんなら訓練場兼託児所に行っていないのも……。

 まぁバレていると思うけど。

 

「そうそう」


 気の流れを意識してよどみなく流す。

 呼吸も楽になりストレッチがしやすい。

 痛みまで軽減してくれるとは。

 気を習っていて初めて良かったと思ったよ。


「うん、流石神童・・ね! バッチリよジンちゃん!」


「……」


 母様、盗み聞きしてました?



◇◆◇



 息子の訓練を終え特製薬草茶を与えて寝かしつけた。

 まだまだ5歳児の体では夜更かしはよくない。


「シャルちゃんは猫人族だから夜更かしも大丈夫ね」


 猫人族は夜型だから今からお仕置き、いえ特訓をしても大丈夫でしょう。

 彼女の母親であるミレアにはこの間許可を取ったし問題ないわ。


「あら……?」


 月明りに照らされる訓練場にシャルルちゃんが待っている。

 元気がないみたいで膝に頭を埋めて座っていた。

 いつもぴょこぴょこしている尻尾が項垂れてるわねぇ。


「どうしたの、シャルちゃん? 元気がないわねぇ~」


「メリサママ……」


 顔を上げるなり泣きながら胸に飛び込んできた。

 ジンちゃんはまったく手のかからない子だけど、シャルルちゃんはよく泣く子だったわ。

 ミレアは仕事でいないし、ミレアの旦那はダメ男だし、つい甘やかしちゃうのよね。

 

「ジンが取られちゃうにゃ……」


 ぽっとでの女に好きな男の子を取られたら我慢できないわよね?

 猫人族の女は特に嫉妬深いもの。

 

「なら特訓しましょう? 可愛い男の子は強くて綺麗な女が好きなのよ?」


「ほんとにゃ?」


「ええ、向こうからシャルちゃん大好きって言ってくるわよ」


 シャルルちゃんはその大きな瞳を輝かせている。


「にゃにゃ♪」


「ふふっ」


 ジンちゃんはきっと急速に成長する。

 まだまだシャルルちゃんに負けてもらっては困るわ。

 

「そうだ、シャルちゃんにだけ、特別に秘密の技を教えてあげましょうか」


「秘密の技っ!?」


「そうよ? ほんとうは大人にならないとダメだから、内緒よ?」


「教えてほしいにゃッ!」


 親の許可は取ってある。

 本人の同意も得た。

 なら死んでも・・・・問題はないわね。

 遅いか早いかの違いでしかないもの。


「いい返事ね。 では『獣気』の特訓を始めるわよ!」


 上手くいけばぽっと出の女を一泡吹かせられるかもしれないわ。

 楽しみね。


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