第14話 ビノの実は鈍器にも使える


「大きい……!」


 僕は父と町の外へと出かけた。

 目的は森に行くため。

 僕から森で遊びたいとお願いしたことだけど……。

 なぜか魔の森の側の、町から一時間ほどのところの森まで来てしまった。


「ここはまだ魔の森じゃない。 だがその影響を受けている」


 僕の目の前には、樹齢何百年なんだよと聞きたくなるような巨大な松に似た木が森をなしている。 


「あれ? これっ、ビノの実だ」


 普段食べている茶色いソラマメのような豆。 それがいっぱい入ってる大きな茶色い実がビノの実。 蜥蜴のようなゴツゴツした実で、鈍器にもつかえそう。


「あぁ。 こいつのおかげで、この国じゃみんな暢気に暮らせているのさ」 

 

 この大きな松の木全部にビノの実がたくさん生っている。

 実のままなら何か月も保存が効くから、これをいっぱい集めればルーナも飢え死にはしないだろうか? 毎日これだけだとさすがに可哀そうだが。


「魔の森の近くはどうして豊かな森が多いかわかるか?」


 父、タブラは端整な顔を悪戯っ子の笑みに変えて、ビノの実を集めている僕に問いかけた。

 タブラは軽装だが、短弓とダガーを装備をしている。


「……罠?」


「はは、正解だ」


 タブラは軽く笑いながら、矢を放った。


「え?」


 弓を構える動作の途中で打つような、物凄い速射。

 僕の耳朶を『ヒュッ』と矢が通り過ぎる音が撫で、後ろで『キュウ!』と断末魔の悲鳴が響いた。

 振り返ると、角の生えた兎に矢が刺さって倒れている。


「いいか、ジン。 魔の森は生き物だと思え。 狡猾で残忍で無慈悲な生き物だ。 決して恵みをタダで与えてくれるような、優しい存在じゃないのさ」


 『人類の脅威』それが魔の森だと、狩人ハンターである父は言った。


「だからな? 俺に憧れるのはわかるが、ハンターになんてなるもんじゃないぞ?」


「え?」


 誰が何に憧れていると?


「ん? ハンターになりたいんじゃないのか? メリサが、言ってたんだがなぁ」


 アレかな……、市場の情報とか色々聞きだすのに母を質問攻めにしたから勘違いさせたのかもしれない。

 魔の森とか、薬草とか、魔石とか。 


「まぁいいんだけどよ……」


 若干寂しげな父である。


 その後は近場の水場に行き、仕留めた兎の血抜きと解体を教わり、食べられる山菜を取ってご飯にした。

 薬草とかも教えてもらったけど、一人では森に入らないように注意された。 

 貰ったツノウサギの角の鋭さがその理由だろう。

 十センチ程度だが頑丈で結構太い。

 これは刺さったら危険だ。


「たまには一緒に行ってやるからよ」


 どうやら週に半日ぐらいは家族サービスをしてくれるらしい。



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