第3話 上げて落とすメリサ母様鬼畜です!

 顔を腫らしフルチンで町を突っ切る。

 あぁ。

 心地よい。


「フフフフ……」


 決して僕はその手の変態ではない。

 なぜだろう。

 今までとは空気が違う。

 これが異世界。

 魔法の空気!


「ちょ!? ど、どうしたのよ、ジン!!」


 やる気に満ち溢れた僕に驚いた母。

 今までの僕はどこか変な子供で、落ち着き達観しているといっていいほどに人形のようだった。 

 しかし、もう違うのだ。


「母様」


「あぁこんなに顔が腫れて、って、それよりズボンはどうしたの!?」


「そんなことは良いのです、メリサ母様」


 そんなことって……と僕の身長に合わせしゃがんだ母は、腫れた顔を訝しげに覗き込んだ。

 

「ふぅ……この顔の腫れはシャルちゃんね。 あとでおしお、教育が必要ね……」


 シャルルは自業自得だな。

 フルチンにした悪ガキどもなどどうでもいい。

 気づいたらなかったと適当に言っておく。


「ジンは可愛いから、変態がいるようね……」


 母から謎の圧力を感じる。

 外で鳥たちが飛び立った音が聞こえた。

 これが殺気というやつだろうか。

 ちびりそうです。


「母様」


「あら、ごめんなさい。 ちょっと、町の見回りを強化しないといけないわね」


「僕、魔法使いになりたいです」


 なにを言っているの? と、母の空色の瞳が僕を見た。

 蒼色のポニーテールに結んだ髪が斜めに落ちてコテンと首をかかげる母。

 やがて母は困った様な表情で僕に告げた。


「んー……、私たち、人族は魔法を使えないわよ、ジン?」


「……え?」 


「たしかに魔法は存在するけれど、原始魔法を天人族、魔人族が使い。 森人族は精霊魔法を、悪魔族は暗黒魔法を使う。 他にも種族によっては固有の魔法を使うかしら。 あぁ、特殊な例として人族でも神聖魔法を使う者はいるわね……」


 魔法は存在する。

 でも僕には使えない?


「神聖魔法ってどうやって使うのですか?」


「うーん、私も詳しくは知らないの。 特殊な儀式とか怪しい薬を使うとか、長い信仰のすえに神から授かるとか……詳細は不明ね」 


 信仰系の魔法か? 

 魔法が種族固有とか、ネトゲじゃ絶対流行らないよ。

 

「でもやっぱり、人族なら魔術が一般的なんじゃないかしら」


「っ!?」


 あるんじゃないですか、母様。

 もったいぶっちゃてもう!!


「ど、どうやって使うんですか!?」


「え、知らないわ」


「ふぇ!?」


 僕のリアクションが面白かったのか、母は微笑みながら僕に告げる。

 

「魔術師って根暗で陰険で隠匿体質なのよ。 魔術師どうしですら、魔術については隠し合ってるらしいわよ? そのくせ自惚れやで自慢ばっかりのつまらない奴らよ」


 くっ!

 母は魔術師に何かあるようだ。 なんとなく棘を感じる。 馬鹿にしているというか……。

 しかし僕はあきらめないぞ。


「メリサ母様。 僕、魔術を、見てみたいです!」


「っ!」


 母の膝に手を置いて、上目遣い。

 五歳のショタの全力のお願いを母に喰らわす。

 これまでの記憶で母が僕を溺愛していることを理解している。

 あざとい、で、攻めるのだ!


「はぁ……、しょうがないわね? こんど、知人に聞いてみるわ」


「っ! ありがとうございます、母様!!」


 僕は全力で母に抱き着いた。

 彼女の豊かな胸に包まれて、この先に逢える魔術師を想像し僕はだらしない顔をしていたことだろう。

 彼女の優しい手が僕の頭を撫でながら、絶望の一言を告げるまで。


「でも、シャルちゃんに勝ったらね」


「えっ」


「男の子が女の子に泣かされたままじゃ、カッコ悪いわよ~~? ――――特訓ね!!」


 こうして、僕の苦難の日々は始まった。

 



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