第2話 覚醒は猫耳幼女の高速パンチと共に
「ぷぎ、ぷご、ぷげぇ――ぷげらッッ!!」
僕は異世界に転生した、らしい……。
「ジン!?」
五歳になるまでは半覚醒状態といえばいいのか。 たしかに自分がその体の持ち主なんだけど、勝手に動いているというかボウっとしているというか、前の記憶は思い出せていない状態で普通に過ごしていた、そんな感じだ。
そして今、僕は死にかけて一気に覚醒したところだ。
僕の幼馴染である猫耳幼女の高速パンチによって、首が左右に振られ過ぎてねじ切れそうになったところで。
「シャルちゃん! 顔はダメって、言ってるでしょう!?」
悪気のまったくかけらもないクリっとした瞳が、指導してくれている先生に怒られて潤ませている。 いやいや、泣きたいのはこっちなんだよ。
稽古に出るたびボロ雑巾のようにされて、もうね、ほんと。
この異世界転生、脳筋すぎて辛いんですけど!?
「ごめんにゃ~、ジン。 ……生きてる?」
膝から前のめり崩れ顔が地面についた体勢の僕に、幼馴染である『シャルル』がツンツンと指をさしてくる。
「あっ、あわわわわ!?」
僕が顔を上げると慌てたように猫耳の幼女は目を白黒させ尻尾を揺らしている。 小さな顔についた耳が揺れている。
「あぁ、ジン君の可愛い顔が、腫れて、こんな……。 メリサさんにバレたら、どうしよう……」
視界が悪い。
顔が腫れているらしい。
先生が言ったメリサは僕の母の名だ。
「内緒にすれば問題ないにゃ!」
「それは無理よ、シャルちゃん……」
シュンと垂れ下がった猫耳と尻尾。
別にうちの母はモンスターペアレンツというわけではないけど、僕のことを溺愛しているから、シャルルがお仕置きされる。 特訓というなの地獄のお仕置きを。
自業自得である。
「……帰る」
僕は立ち上がりふらつきながら家に帰る。
ぼんやりとした記憶の中で、五歳になってから毎日がこんな感じだ。
この世界では、というより、この国では五歳児を幼稚園にいれる代わりに、武術の訓練場に放り込む。
もちろん大人たちとは別のところだ。 僕がいるのは五~十歳の男女がいる一般的な訓練場兼託児所。
幼稚園や小学校の代わりさ。 バイオレンスすぎる託児所だよ。
「おいおい、みろよアレ」
「女に泣かされてやんの~」
「女みてぇな顔して、ほんとにチンコついてんのかぁ?」
そしてガラも言葉使いも悪い。
この国は多種多様な人種がいるようで、人間の子である僕は体格にはまったく恵まれていない。
訓練場から悪ガキどもがついてくる。
「おら、ぷっギャハハハハハ」
「ちゃんとついてたな!!」
ズボンを取られた。
パンツは穿いていない。
フルチンだ。
いつものことだが、イジメはよくないと思う。
「殺すぞ」
時間の無駄だから。
いつもの僕なら返せと、泣き叫んでいただろう。
その声を聞きつけて、シャルルや先生が飛んでくる。 そんな日々を過ごしていた。 でもそれも今日まで、いや、今この時までだ。
僕は覚醒したのだから。
「っ!?」
腫れあがった瞼の奥で、僕の瞳はギラリと怪しい光を灯したのだろう。
異変に気付いたいじめっ子は後ずさり息を呑んだ。
「僕にかかわるな。 僕はやることがある」
魔法だ。
僕は、魔法を確かめる。
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