武の調べは天魔を喰らう

大舞 神

第1話 プロローグ 魔法に憧れる少年


 皆には『憧憬』というものはあるだろうか?


「はぁ……」


 僕は自宅の小さな部屋で、退屈な日常に溜息を一つ吐いた。

 コタツに入りパソコンで動画サイトを見ながらスマホでゲーム。 パソコンゲームのイベントの時間になれば、今度はパソコンで対戦ゲームをする。 


「ふっ……」

 

 鮮やかに決まる魔法の一撃。

 勝ちを確信していた相手の顔が絶望に歪むのがモニター越しに伝わってくる。 僕は煽りも忘れない。 ネットで盛大に叩かれるが構うものか。

 誰でもいい。

 この退屈な日常に、『魔法』を掛けてくれ。


「魔法、使いてぇ~~」


 僕は魔法が好きだ。

 ゲームも映画も漫画も。 主人公が魔法使いの物が好きだ。

 夢の中ではいつも魔法使い。

 指を振るだけで踊る道具たち。 意思と魔力を込めて創造する天地を揺るがす大魔法。 ロマンの詰まったファンタジー世界を、僕は魔法と共に生きる。 

 そんな『夢』。


「まぁ、あと十三年も童貞なんて嫌だけどさぁ~~」 

 

 三十過ぎて童貞だと、魔法使いになれるらしい。

 怪しすぎる都市伝説に、僕はあと十三年も童貞を貫き通すのは嫌だ。

 なんなら今すぐ捨てたい、魔法を使ってでも。

 もし魔法が使えたらな、クラスのあの子も、テレビに映るタレントだって僕に興味を持つに決まっている。


 そんな不純な動機は抜きにしても、僕は『魔法』というやつにどうしようもないほど、恋焦がれていた。


「ん?」


 恋する乙女な僕はネットで魔法の情報を探っていた。

 日課といっていい。

 ある意味で至福のひと時、後から時間を無駄にしたと嫌になるのだが。

 まぁ同じ趣味趣向の人たちが作ったサイトで面白いに違いはないけどさ。 


 そして僕は見つけてしまったんだ。

 

 このうえなく怪しいサイト。

 でも雰囲気が、サイトから漏れ出るオーラが、僕の興味を惹きつけてやまない。

 僕は時間を忘れページを下げ続けた。

 

 そして最後には一つの質問がポツンと設置されていた。


「『異世界に興味はありますか? もう二度と戻れないとしても行きたいですか?』か、……シンプルにイエスオアノーボタンとは。 これまたアレだなぁ……」


 僕という人生は終わり、新たな人生を迎えるそんな出会いを。


「ナムサン!」


 カチッ。

 

 どうせ何も起こらない。

 良くても新しいゲームの宣伝、最悪はウイルスとかだろう。

 そんな風に思いつつも期待していた自分がいた。

 僕は本当にどうしようもない。

 


 そしてゆっくりと。

 世界は縮み歪み回り巡り廻る。 

 僕の意識は世界に吸い込まれて消えていく。 

 微睡むように。 

 僕という存在は世界から消えていく。



◇◆◇



 僕は新たな世界へ転生を果たした。

 

 そこは僕が夢見た剣と魔法のファンタジー世界。


 数多の種族が住まい、数多の魔法や神秘が存在するそんな世界だ。


 まぁ、とは言ってもさ……。


 僕の生まれた国は異世界ではマイナーな、武を信条とする、超『脳筋国家』だったんだけどさぁ!?


 その上幼馴染の猫耳少女が○○〇過ぎて、僕は五歳で撲殺されるかもしれない。 


 それは絶対嫌ッ! せっかく剣と魔法の異世界に転生したんだ……。

 

 僕は絶対に、『大魔法使い』になってやるッッ!! 






――――――――――――――――――――――――


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