第9話 彼女の小さな口の中に突っ込んだ……
僕は父から貰った小遣いで団子を買い、ルーナのもとへやってきた。
武術を習いにきたわけではないけど、他に行くところもないしね。
「ルーナ!?」
着いてそうそう目に入ったのは、地面に倒れているルーナだった。
誰かにやられたのか?
僕は周囲を警戒しながら、ルーナに近寄った。
「……ぅう、ジン」
弱弱しいルーナの声。
外傷はなさそうだ、病気か?
さらに近づけば原因はわかった。
ぐぅ~~~~~~~。
なんとも可哀そうな悲鳴が聞こえた。
「腹が減ったのじゃ……」
僕の持っている団子に鼻をスンスンするルーナ。
目の前で左右に振れば、捨て猫のように首が振られる。
包みから取り出した団子。
うつ伏せのまま口を開けたルーナ。
綺麗な歯並び、八重歯が少し鋭い。
あ~あ~と口に入れろと促してくる。
「……」
どうしようかと思っていると、涎が溢れて垂れている。
さすがに可哀そうなので彼女の小さな口の中に僕の団子を突っ込んだ。
「んっ、うんん!」
頬張り頬が膨らむ。
夢中になって僕の団子を貪るルーナ。
もきゅもきゅ、と団子が減っていく。
「おいしい?」
「ンッ!? み、水っ」
団子が喉に詰まり涙目になったルーナ。
僕はしょうがないなと水を汲みに行った。
◇◆◇
「ぷふぁ! 死ぬかとおもったのじゃあ……」
それは腹が減ってなのか、団子が喉に詰まってなのか。
どちらにせよ、どうしようもない死因はさけられてよかったね?
「む、それも良さそうな匂いがするのぉ……」
ルーナの瞳が僕のお昼にロックオンされている。
肉をパンキノコで挟んだ贅沢なご馳走。
父が狩りから帰った後しか食べられないご馳走。
「食べる?」
「良いのじゃ!?」
「いいよ」
今回の狩りはいっぱい成果があったみたいだから、帰ってもまだあると思うし。
それに、そんな涎を我慢している女の子に見られながらじゃ、食べられないしね……。
出てくるときにも食べたし、僕はまだ小さいからそんなにたくさんはいらないんだ。
「うまいっ! ふわっふわのパンキノコが、ジューシーな肉汁をたぁんと吸って、本来の甘みもあわさり究極の美味を創りだしておるのじゃ……。 これは至高の一品なのじゃああああああああ!!」
どっかの料理漫画のようなリアクションを見せるルーア。
「パンキノコって美味しいよね~~」
パンキノコは五センチほどの白いキノコで、調理方法で色々な味に変化するらしい。
蒸し焼きにすれば十倍くらいに膨らんでほのかな甘みがでる。
焼き料理にすれば香ばしい匂いとパリパリとした触感でまた美味いんだよね。
「こんなご馳走をわらわに献上するとは、良き弟子じゃ!」
「はは、それはどうも」
「うむうむ! 師匠の世話は弟子がするものと決まっておるしの。 これからは毎日頼むぞ、ジンよ!」
「えぇ……」
こいつ、ダメ人間だ。
五歳児に毎日ご飯をせびるって、ダメ師匠過ぎるだろう。
弟子やめようかしら。
「うっ、そ、そんなクズを見る目でわらわを見るでない。 ……やっぱり、ダメかのぉ?」
「……」
いじけた捨て猫のように、指先をくりくりしながらこちらを窺うルーナ。 わざとらしいが、どうやら自分がクズ発言をしているという自覚はあるらしい。
こんなところで少女が一人でいる理由。
ルーナの事情は気になるけれど、問い詰めたりはしたくない。
まぁ、どうにかなるかな?
「もう、しょがないなぁ」
「! ジン、ありがとなのじゃ~~♪」
しかし、これまでどうやって暮らしてたんだろう。
ここに住むにも全然生活道具ないし。
「ルーナってどこに住んでるの?」
「うん? あっちの林の奥に、小屋があるのじゃ。 今はそこを寝床にしておるが、そのうちおっきな道場でも建てるかのぉ~~」
今日食うものにすら困っているのに道場を建てるとは一体。
なんて僕が呆れていると。
ルーナはびっくりするくらい良い笑顔で、親指を立てながら一言加えた。
「頑張るのじゃぞ、ジンよ!」
僕が頑張るのね……。
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