第17話 浮気相手?


「昨日はお楽しみだったみたいね、タブラ?」


 朝帰りの父に、母様がたずねた。


「全然、楽しくねぇよ……」


 父は町の賭場に遊びにいったはずがずいぶんとボロボロで帰ってきた。 怪我はしていないようだけど、服は土ぼこりがついてるし髪もボサボサだ。 喧嘩でもしてきたのか?

 賭場は治安が悪いらしい。 


「ふふ、ミレアは相変わらずね」


 なぜか嬉し気な母メリサ。

 

「あの戦闘狂バトルジャンキー……。 久々にガチで戦闘したから体中が痛てぇぜ……」


 調子を確かめるように、体を動かす父。

 

「そうだ、久しぶりに皆でお風呂にでもいきましょう!」


 パンと手を叩いて母様が宣言する。

 

「あぁ、それもいいな」


 本日は家族でお風呂に行くことに決定した。


 家には風呂がない。

 基本的にはどこのうちでも濡らしたタオルで体を拭くか、井戸水で水浴びをするくらいだ。

 町には公衆浴場があるので、たまの贅沢に利用することもある。


 

 町の中心からは少し離れて岩山を利用した公衆浴場へとやって来た。

 岩山にはいくつも穴が空いていて、もくもくと白い蒸気がでていた。 


「さぁいくわよ~」


 僕たちは浴着を付けて薄暗い洞窟に入っていく。

 明かりは緑色に輝く石が壁に設置されている。

 まるでダンジョンのようでテンションが上がる。

 坂道を登っていくと、白い蒸気に覆われた部屋に着く。


「あっつい」


 蒸し返すような熱気が風に運ばれて僕の顔を殴る。

 肌から一気に汗が出てくる。

 蒸し風呂、スチームサウナがこの国のお風呂である。


「はぁ~~……気持ちいいわぁ」


 岩盤を利用した椅子やベットが部屋にはいくつもある。

 広い部屋の一区画を僕たちは使って、まったりと寛ぐ。

 岩のベットに寝転べば、熱を帯びた石面が体を芯から温めてくれる。 熱い蒸気が時たま風にのってやってくるのもまたいい。


 他にも何人かいるようだが、遠くまでは蒸気で見えない。

 蒸気は中心から天井に向かって出続けている。

 完全に下までは降りてこない様に調整されているみたい。

  

「失礼しまーす、マッサージはどうですか~?」


「お願いするわ」


 手桶を持った女の人がやって来た。

 マッサージの営業に慣れたように岩のベッドに寝転がり受ける母様。

 家族で来るのは久しぶりだが、母様はよくここにきているのだ。


「今日のオイルはウインドホースのプラセンタです~」


「あら、いいわね」


 武術馬鹿な脳筋の国だけど、美容と健康はやっぱり女性に人気だ。

 市場のおばちゃんたちの話題も、化粧品や健康食の話題とかが多かった。 洋服は基本シンプルな服装を好むから、そこは武の影響があるのかもしれない。


「ふぅ、奥でなんか飲むか?」


「うん」


 父と奥に向かう。

 いくつか通路があり、洞窟探検をしながら進んでいく。

 陽の光の先、カフェスペースが見えてくる。

 僕たちは湿度から解放され、さわやかな森の香りに包まれた。


「気持ちいい……」


 立ちシャワーで汗を流し、木の椅子でリラックス。

 父が持ってきてくれた果実水で喉を鳴らす。

 肌に触れる風は冷たく、体の中からはじんわりと熱を感じて、頭がクリアになっていく。

 穏やかな時間は過ぎていく。


「昼間から酒とはいい身分だな、タブラ?」


 エールを飲んでいた父に猫耳をつけた女性が話しかけてきた。

 その女性はちょっと勝気そうな声と表情。

 どこかで見たことがあるような顔だちの猫人族。


「げ、ミレア……」


 スラリとした猫耳美人。

 露出の多い浴着から見えるお腹と足は鍛えられているのがよくわかる。 女性特有のしなやかな筋肉。 

 美脚が売りのモデルみたいな体型である。

 父はエールを片手にすごい気まずそうな顔をしている。

 浮気相手か?


「ん? そっちの子は……」


 浮気相手の女性と目があった。

 母様ほどではないが美人だ。


「こんにちわ」


「息子のジンだ」


 さすがに子供がいることは隠していないようである。


「ジン……いつもシャルルがすまないな」


 ああ、どこか見たことがあると思ったらシャルルのお母さんなのか。 

 黒のような紺色の髪色は一緒だし顔だちも似ている。

 シャルルはロングヘアだがお母さんはショートヘアで凛々しい。

 ジッと見つめられてなんだか恥ずかしい。


「あの……?」


「ああ、いや、……これからも娘をよろしく頼む」


 そう言って頭を下げて父の浮気相手は去っていった。

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る