11/23 白

 闇の中にぼんやりと佇む人影にむかって、わたしは「薫くん?」と話しかけた。

「もしかして薫くんは、かずみちゃんを探しに来てるの?」

 ノックの音が止んだ。影はじっと、黙ってそこに立っている。

「かずみちゃん、もしかしたらうちに来たかもしれない。七宝焼の髪飾りに心当たりない? うちの椿にそっくりなの。かずみちゃんが気に入ってた花と同じ」

 少し間をおいて、ドアの向こうから「見せて」という声が返ってきた。

 これ、と言ってポケットから髪飾りを取り出し、相手に見せようとした。でも、ステンドグラス越しにこんな小さなものを見せることはできない。

(ドアを開けなきゃ駄目だ)

 鍵を開け、ドアノブに手をかけたところで、ふと思った。

 開けてもいいのだろうか。

 外にいるものが、家に入ってくるんじゃないだろうか。

(外にいるの、本当に薫くんなの)

 私は顔をあげた。

 ステンドグラス越しに、真っ白な人影が見えた。

 昼間に見た薫くんは、チャコールグレーのセーターを着ていた。

「見せて」

 ドアの向こうから声がした。

「だれ?」

 わたしが問いかけたとたん、ドン! と大きな音がした。ドアが叩かれたのだ。玄関全体が軋みそうな勢いだった。

 わたしは後ろに飛び退いた。ドン! ドン! という音の合間に「見せて」「開けて」という声が聞こえる。どうして初めから気づかなかったのだろう? 声も姿も、明らかに薫くんのものではないのに。

「開けて」

「開けて」

「開けて」

 わたしは踵を返し、書斎に駆け戻った。

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