11/4 温室

 様子のおかしい姉を見るのが怖かった。わたしは書斎を出て、階下に向かった。

 リビングでアルバムを捲って、昔の写真を見た。まだ首だけではなかった頃の姉とわたしが並んでいる。七五三の晴れ着を着た姉と、おめかし用のワンピースを着たよちよち歩きのわたし。

 まだ体があった頃、姉はわたしとよく手をつないで歩いた。そうしないと、わたしは学校どころか、家の近くの公園にも行けないような子どもだった。


 次の日、姉はいつもの姉に戻って、飾り棚の中で静かに眠っていた。わたしはほっと胸をなでおろした。

 姉は昼過ぎに一度目を覚まし、なぁ子ちゃん、とわたしを呼んだ。

「あれ、なにかしら」

 そう言ってわずかに顎をしゃくった。

「何もないけど」

「あるのよ」

 何があるのかは、教えてくれない。ただ「ある」と繰り返す。


 姉が指すほうには書斎の窓があり、開けると我が家の温室が見える。

 温室には様々な種類の薔薇のほか、名前のわからない花が咲く大きな鉢植えがある。

 その地中には、母の首が埋まっている。

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