11/10 来る

 薫くんから電話がかかってきた。

『おふくろがそっちに向かってる』

 忠告のつもりらしかった。電話を切ると同時に、玄関のチャイムが鳴った。


 叔母は紺色の地味な紬に、灰色の無地の羽織を着ていた。客間のソファに腰掛け、にこりともせずに「里伽子さんはどうなの」とわたしに問うた。

「眠ってます」

 わたしはそう答えた。実際、姉は戸棚の中で眠っているはずだった。

 座卓の上には何も出していない。お茶も、茶菓子のひとつもない。早く帰ってほしかった。

「わたしの姉のようになる前に、あの子もどこかに埋めたほうがいい。今はよくても、いずれそう思うときが来るからね」

 叔母はわたしを睨む。昔はこんな目つきをするひとではなかった。もっと朗らかで美しい女性だった。でも、かずみちゃんが生首になる一年前くらいから、様子が変わってしまった。

(奈々子さん、最近頭の底がぐらぐらするの)

 かずみちゃんがそう言い始めてからのような気がする。

 姉を埋めたほうがいいと言うのなら、かずみちゃんはどうなんだろう。叔母はいずれ、自分の娘すらもどこか暗い土の中に埋めてしまうのだろうか。

「かずみはどうするんだって、思ってるんでしょう」

 叔母が、わたしの心を読んだかのようにそう言った。

はもう駄目よ。奈々子ちゃん」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る