姉さんと暮らす

尾八原ジュージ

11/1 むかしばなし

「ねぇ、なぁ子ちゃん覚えてる?

 むかし、お父さんの書斎にあった飾り棚の中に、女の人の首があったの。

 あれって私の夢とか妄想じゃないよねぇ。

 ふわふわしたクッションの上に、髪の長い女性の首が載ってて、いつもは眠ってるみたいに目を閉じてるんだけど、たまに起きてるときがあるのね。

 ね? あったでしょう? そうそう、いっしょにガラス越しに見てたじゃない。

 忘れちゃったの?

 私、あの首けっこう好きだったのね。

 だから一度、ひとりでゆっくり見たいなと思って。

 父さんもなぁちゃんもいないときに書斎に入って、飾り棚の扉を開けてさ。

 そしたら首はうっすら目を開いてて、どうも起きてるみたいなのね。

 だから話しかけてみたの。あなただぁれって。

 そしたらね、ちゃんと答えてくれたはずなんだけど。

 なんて言われたのか、どうしても思い出せないのね。


 何だったかな……」


 姉さん、いつもその話するよね。


 そんなことを考えながら、わたしは姉の赤い唇が動くのを眺めている。

 姉はおしゃべりに疲れたのだろう、そこまで話すとふぅっと息を吐いて、すっと瞼を閉じてしまった。

 わたしは姉の生首を抱えてリビングを出る。

 階段を上り、かつて父の書斎だった部屋を開けると、飾り棚の中のクッションに姉の首を横たえる。

 そして棚の扉を静かに閉め、しっかりと鍵をかける。

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