11/2 食事

 首だけになった姉は、もう空腹になるということがないらしい。日がな一日、飾り棚の中でうとうとと眠っている。

 時折目を覚ましてわたしと話す以外には、これといってすることもないのだから、あえて栄養をとる必要がないのかもしれない。でも、これでいいのかどうかはわからない。

 飾り棚のガラス越しに姉の寝顔を眺めながら、本当にこれで大丈夫だろうかと考える。姉はちゃんと長持ちするだろうか。本当に食事は与える必要がないのか。

 父が存命のうちによく聞いておけばよかった、と思う。


「姉さん、なにか食べたいものとかない?」

 そう尋ねてみると、姉は「何でもいいの?」と夢見るような表情で言う。

「なんでもいいよ」

「なら、金星堂の金平糖が食べたい」

 わたしは言われたとおり、近所の菓子屋に赴いて金平糖を買った。小ぶりな丸い瓶に、色とりどりの金平糖が詰まっている。それを持って帰って飾り棚の前に立つと、姉は半分閉じかけていたまぶたをゆっくりと開けた。

「姉さん、金平糖食べる?」

「食べる」

 私は桃色の金平糖をひとつ、姉の口に入れてやった。姉はのんびりと口を動かしながら「甘いねぇ」とうっとりするような声で言う。

「もういいわ。あとは、なぁ子ちゃんが食べて」

 姉は目を閉じる。と、もう眠っている。長い睫毛が、白い頬に穏やかな影を落としている。

 わたしは金平糖をひとつ取り出し、口の中に入れた。素朴な甘みを口の中で溶かしながら、この金平糖はわたしの好物で、子どもの頃によく食べていたものだということを、今更のように思い出した。

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