11/14 月

 満月の夜、わたしは姉を飾り棚に閉じ込めて、外に出さないようにしていた。

 姉が人間の言葉を失ったようになり、きりきりと歯ぎしりばかりをして過ごすのは、満月の夜に比較的多いのだ。

 幸い、姉はとくに文句などないらしい。満月の光が当たらないよう、飾り棚のガラス窓に布まで貼られていても、姉はわたしを責めるわけでもなければ、開けてほしいと駄々をこねるでもなかった。

 これまではそうだった。


「なぁ子ちゃん、ここ開けて。外が見たいの」

 満月の夜、姉の様子がやけに気になって飾り棚の様子を見にいった。わたしが書斎に入ったとたん、飾り棚の中、布を貼った向こうから姉の声がした。

「外が気になるの。ねぇ、なぁ子ちゃん」

 こんなふうに姉がなにかを訴えるのは、本当に珍しいことだった。

 それでも外に出したくはなかった。満月の光が、姉を姉ではないものに変えてしまう気がして怖かった。

 姉にはずっと、このままでいてほしい。

「なぁ子ちゃん。ねぇ、なぁ子ちゃんってば。いるんでしょ? 開けてよ」

 棚の中からゴトゴトと音が聞こえ始めた。

「なんだか外が気になるのよ。ねぇ、なぁ子ちゃんどうしちゃったの? 聞こえてるんでしょ? ねぇ、なあ子ちゃん。なぁ子ちゃん、なぁ子ちゃん、なぁ子ちゃん」

 わたしは姉に声をかけず、そっと書斎を出ることにした。音を立てないように廊下に出て、書斎のドアを閉める瞬間、姉の声が耳を打った。


「うそつき」

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