11/28 かわたれどき
姉の歯が首筋に触れて視界が暗転したとき、もうわたしは死ぬんだと思った。
だから今、そうはならなかったらしいと知って、喜ぶよりも驚いている。
どうやらしばらく意識を失っていたらしい。
どれくらい時間が経ったのかわからない。気がつくとわたしは庭ではなく、まったく知らない部屋の殺風景な天井を見上げていた。
部屋の中は暗いけれど、真っ暗ではない。明け方の、まだ太陽が昇りきっていない時刻の暗さだと感じた。
顔の近くで、白いカーテンが微かに揺れた。今は何時なんだろう? 視線を動かしたが、目につくところに時計はなかった。
そして、わたしはようやく腕の中に姉がいないことに気づいた。
起き上がって探そうとしたが、体を起こすどころか手足の指を動かすことすらできない。姉さん、と呼びかけようにも、上手く声が出なかった。
とうとう諦めて目を閉じようとしたとき、ガラリと引き戸が開くような音がして、こちらにパタパタという足音が近づいてきた。そして、人影がわたしの顔を覗き込んだ。
誰がやってきたのか、最初はよくわからなかった。が、部屋の中にぼんやりと浮かぶ全身のシルエットをじっと眺めているうち、わたしはそれを「叔母だ」と認識した。
「奈々子ちゃん、起きたの」
影が言った。やっぱり叔母で間違いないようだった。話そうとしたが、まだ声が出ない。それでも息を精一杯吐き、ようやく絞り出したかすれ声で「姉さんは」と尋ねると、
「あんたはそればっかり」
とため息をつかれた。
「いい? 奈々子ちゃん。首はもう埋めたの。かずみも、あんたの姉さんも、もういないのよ」
叔母は突き放すような声でそう言って、でもわたしの額を、思ってもみないほど優しくなでた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます